SpaceXが8月18日、約24日間の洋上漂流を経て、回収チームがスターシップをクリスマス島の沖まで誘導したと発表した。エンジニアが穏やかな海域で追加の分析を行い、そのあとStarbaseへの帰還を試みるという。海に落ちた巨大な機体を、沈めるに任せず引きずってでも手元へ戻す判断だ。しかも必要なデータは取れたと社の側が語ったあとの話で、それでも現物を追いかけている。遠くから測れることと、手で触れて初めて分かることの差について、かなり高くついた実例がここにある。
まず、確かめられることから
「回収された」と書くのはまだ早い。SpaceXの言葉は、回収チームが機体をクリスマス島沖の地点まで誘導した、エンジニアが穏やかな海域で追加の分析を行う、そのあとStarbaseへの帰還を試みる、というものだ。帰還は決定した予定ではなく「試みる」段階にある。
機体は、7月24日にテキサス州キャメロン郡のStarbaseから上がった13回目の試験飛行の上段、Ship 40と呼ばれるものだ。着水したあとも破断せずに浮いたのはこのプログラムで初めてだと報じられている。これまでの上段は着水の衝撃で壊れるか沈むかしていた。壊れずに浮いたからこそ、回収という選択肢がそもそも生まれた。
「解決した」と言った後も、船を出し続けた
8月4日、マスク氏は熱シールドについて「ジンクスにしたくはないが、この時点で熱シールドの問題は解決したと言っていいと思う」と述べたと報じられている。データと目視検査の示すところはそれだ、と。改良は続けるが、急速な再利用に向けた技術的な障害は見当たらない、とも語っている。
8月7日には、回収そのものについては「うまくいっていない」としつつ、熱シールドとエンジンの重要部分の接写は得られた、と投稿したと報じられている。
つまり、必要な情報は得た、と言い切ったあとの話だ。それでも曳航は続き、11日後に機体はクリスマス島の沖へ着いた。写真とテレメトリで足りるのなら、タグボートを2隻(Normand RangerとSkimmer Tide)出して3週間以上を費やす理由はない。
ここが今回の芯だと思う。測れることは測った、と言ったあとに、それでも現物を手元に置きに行った。遠隔の計測は現物の代わりにならない、という判断が、言葉ではなく費用の形で表明された。
「取っておく」には、これだけかかる
一方で、この選択の値段も並べておきたい。24日間の漂流、悪化する海況、タグボート2隻、数千キロの曳航。しかも途中の自己評価は「うまくいっていない」だった。最初から成功が見えていたわけではない。
そして、まだ終わっていない。発表でも帰還は「試みる」であって、機体がStarbaseに戻るかどうかは決まっていない。
さらに、24日間海水に浸かった機体から何がどこまで読み取れるのかは、現時点で示されていない。現物さえあれば分かる、という話でもない。引き上げる判断は、引き上げたあとに何が残っているかまでは保証しない。
手元に残す現物を、何にするか
規模はまるで違うが、構図は個人の実践にもそのまま出てくる。蓄電池がなぜ落ちたのか、去年と今年で畑の土の何が変わったのか、直そうとして駄目にした道具はどこから折れたのか。ログや写真で足りることもあれば、壊れた現物を手で触らないと分からないこともある。
そして現物を残すのはタダではない。場所を取り、劣化し、見返す時間を食う。全部は残せない。だから「壊れたものは取っておく」も「記録だけ残して手放す」も、どちらも先に決めておく類の方針になる。
決めていなければ、その場の面倒くささが代わりに決める。次に何かを壊したとき、あなたはそれを記録だけ残して手放すだろうか、それとも手元に引き上げて確かめる側に置くだろうか?