SpaceX の Starship が 9 月 28 日 (日本時間 21 時 48 分)、テキサス州の Starbase から 14 回目の飛行に出て、初めて地球を回る軌道に入った。新型の通信衛星 Starlink V3 を 26 基すべて軌道に放出し、宇宙で初めての減速の噴射を行って太平洋に降りた。
軌道に届いたことで、Starship は試験機から「荷物を運ぶ機体」への最初の段差を越えた。ただ、暮らしに届く輸送手段になるまでには、まだ証明していないことが三つある。機体を受け止めてもう一度飛ばすこと、宇宙で燃料を移し替えること、運んだものを地上へ持ち帰ること。どれにも、すでに日付が付き始めている。
まず、確かめられることから
SpaceX が飛行後に公開した振り返りから、起きたことを順に並べる。
上段は上昇の途中で、真空用の Raptor エンジン 1 基が早く止まった。残る 5 基を予定より長く燃やして推力の不足を補い、まずは安全側の経路に乗った。エンジンが止まっても決められた海域に落ちる、軌道の手前の経路だ。管制が残りのエンジンの健全性を確かめて「進め」を出し、海面用の Raptor 1 基を再着火して、地球を回る軌道に入った。
衛星 26 基はすべて放出され、レーザー回線・地上局・利用者のアンテナを通じて、まもなく全基との交信が確立した。SpaceX によれば、衛星はこれから軌道上で点検を受けて高度を上げ、それが終わってから利用者向けの通信を始める。
前回、7 月 24 日の 13 回目の飛行でも V3 は 20 基放出されたが、軌道の手前の経路だったため、大気圏に戻って燃え尽きた。運んだ衛星が空に残ったのは、今回が初めてになる。
「軌道に届いた」は、四つの工程に分かれる
一言で成功と呼ぶ前に、今回の飛行を工程ごとに分けておきたい。
一つ目の軌道への到達は、達成した。二つ目の荷物の放出も、26 基すべてで済ませ、交信まで確かめた。三つ目の軌道からの離脱では、宇宙で初めての減速噴射を行い、事前に海と空の交通を止めておいた北太平洋の着水域に降りた。
四つ目の、機体を無事に持ち帰ることは、まだだ。AP 通信によると、計画では約 10 時間かけて地球を 6 周する予定だったが、飛行は約 3 時間で終わった。SpaceX は上昇中のエンジンの不具合を踏まえ、念のため軌道上の時間を短くしたと説明している。同社は 9 月 15 日の時点で、初期の軌道飛行では中止の判断基準を意図的に慎重に置くと書いていた。早めの切り上げは、その事前の約束どおりの判断でもある。
着水の様子は、伝え方が分かれる。SpaceX は「目標どおり」に着水したと記し、AP は機体が着水後に横倒しになって炎を上げたと伝えた。軌道に届くことと、同じ機体を何度も使えることは、別々に証明するしかない。
次の関門は、発射塔の腕
その四つ目に、次の飛行で挑む可能性がある。AP によれば、次の機体は今回の飛行データ次第で Starbase の発射台まで戻り、塔の巨大な機械の腕で受け止められる。イーロン・マスク氏は成功の見込みを「五分か、少し良い」と表現した。受け止めに成功すれば、その機体を年末か来年初めに再び飛ばすという。
なぜ受け止めにこだわるのか。SpaceX は Starship を、大気圏への再突入に耐えて形を保つ「完全に再使用できる」機体として設計している。使い捨てずに何度も飛ばせれば、打ち上げ 1 回の費用が下がり、飛ばせる回数が増える。暮らしの側に届く変化は、軌道に届いた一回からではなく、この回数の積み重ねから来る。
回数を支える地上側も動いている。米連邦航空局 (FAA) は 1 月 29 日、フロリダ州ケネディ宇宙センターの 39A 発射台から Starship を年に最大 44 回打ち上げる計画を認める決定に署名した。AP によれば、ケネディの発射場は完成が近く、ルイジアナ州に 3 か所目も計画されている。
ただ、見込みは五分だ。うまくいかなければ、再使用の証明はもう一回先に延びる。
月への宿題は、宇宙での給油
Starship にはもう一つの役目がある。NASA の月探査計画「アルテミス」で、宇宙飛行士を月面に降ろす着陸船になることだ。
その計画は今年組み直された。NASA は 2 月 27 日、アルテミス III を 2027 年に地球の低い軌道で行う試験の飛行に改め、SpaceX と Blue Origin の着陸船の一方または両方とのランデブーとドッキングを試すと発表した。月面への着陸はアルテミス IV に移り、時期は 2028 年とされた。AP は、この地球周回でのドッキング試験を「早ければ来年の夏」と伝えている。
月へ行く前には、宇宙で燃料を集める工程が要る。NASA の監察総監室の 3 月の報告書によると、SpaceX はまず燃料の貯蔵庫となる Starship を地球の低い軌道に上げ、そこへ 10 機を超えるタンカー役の Starship が燃料を運び、最後に着陸船へ移す計画だ。同じ報告書は、機体どうしで極低温の燃料を移し替える大規模な試験が、2025 年 3 月の予定から 12 か月遅れて 2026 年 3 月になったと記し、NASA の着陸船計画はこれを最も大きな技術課題の一つとみなしているとした。
SpaceX は 9 月 15 日、14 回目以降の軌道飛行で「初めての軌道上での推進剤の移送」などの新しい試験に進むと書いた。ただ、日付は示していない。軌道に届いたことは、この給油の試験を始める前提がようやく揃った、という意味でもある。
打ち上げるだけでなく、持ち帰る
Starship の使い道には、新しい線も加わった。宇宙で実験したものを、地上へ持ち帰る線だ。
SpaceX は Starfall と呼ぶ帰還用のカプセルを開発しており、6 月 23 日には Falcon 9 で実証機を打ち上げた。9 月 21 日には、衛星の打ち上げの取りまとめを手がける Exolaunch が、2029 年に Starship で打ち上げる Starfall のミッションについて SpaceX と契約したと発表した。
Exolaunch は荷物のまとめ役として、創薬・バイオの企業、素材の開発者、政府や宇宙機関、研究機関などに、実験を宇宙へ運び、宇宙の環境で動かし、地上へ無事に戻すまでを一つの窓口で提供するという。想定する荷物は、医薬品とバイオテクノロジーの研究、生命科学の実験、新素材の研究、宇宙での製造、技術の実証だ。
ここで言えるのは、実験の機会が増えるところまでだ。宇宙で行った実験が、どんな薬や素材につながるかは、まだ誰にも分からない。2029 年という時期も、その頃の Starship が予定どおりに飛べていることを前提にしている。
暮らしの側から、どう待つか
Starship のニュースは、これからしばらく大きな見出しで届き続ける。受け取るときは、確認済みの事実と、日付の付いた目標とを分けておきたい。
確認済みなのは、軌道に届いたこと、衛星を放出したこと、宇宙で減速できたこと。目標の段階にあるのは、塔での受け止めと再飛行、宇宙での給油、2027 年のドッキング試験、2029 年の持ち帰り。どれにも日付は付いているが、給油の試験が一度ならず延びたように、日付は動く。
通信の面では、今回の 26 基が利用者向けに動き出すのは、点検と高度の引き上げが終わってからだ。衛星通信をすでに使っている人や、山や海辺の暮らし、災害への備えとして持とうと考えている人にとって、空の容量が目に見えて増えていくのは、Starship が回数を重ねるようになってからになる。アンテナと月々の料金、それを動かす電源、空が開けた設置場所が要ることは、その後も変わらない。
一方で、次の飛行を待たずに決められることもある。衛星通信を暮らしの主回線にするのか、地上の回線が止まった日のための予備として持つのか。その選び方は、塔の腕が機体を受け止められるかどうかとは関係なく、今日から考えられる。
見ておきたい点
- 15 回目の飛行の計画: spacex.com の Starship のページに次の飛行が載ったとき、塔での受け止めを試すのかどうかが分かる。年末か来年初めとされる再飛行の時期も、そこで確かめられる
- 宇宙での給油の試験日: SpaceX の更新ページと NASA の着陸船計画の発表に、日付が載るかどうか
- アルテミス III のドッキング試験: NASA の発表で、2027 年の打ち上げ時期がどこまで具体化するか
ことば
- 推進剤の移送 — 宇宙空間で、ある機体のタンクから別の機体のタンクへ燃料と酸化剤を移し替えること。Starship は月へ向かう前に軌道上で燃料を集める計画のため、この工程の成否が月面着陸の時期を左右する。
- Starfall — SpaceX が開発する、宇宙で実験した荷物を地上へ持ち帰るための帰還カプセル。6 月に Falcon 9 で実証機を打ち上げ、2029 年には Exolaunch が取りまとめるミッションが Starship で予定されている。
- アルテミス III — NASA の月探査計画の 3 回目の有人飛行。2 月の計画変更で月面着陸から地球の低い軌道での試験に変わり、着陸船とのドッキングを試す。月面着陸は 2028 年のアルテミス IV に移った。
軌道の次に残る三つの証明のうち、あなたの暮らしに最初に届いてほしいのはどれだろうか?
参照
- SpaceX Starship Flight 14 (飛行後の振り返り: 真空用 Raptor 1 基の早期停止・軌道投入・26 基放出と全基交信・軌道上時間の短縮・初の軌道離脱噴射)
- SpaceX Updates「Starship to Orbit」(2026-09-15: 初期の軌道飛行は中止基準を慎重に・14 回目以降で初の軌道上推進剤移送・完全再使用の設計)
- AP 通信 (PBS 掲載・2026-09-28: 約 10 時間 6 周の予定が約 3 時間・着水後の横倒し・塔での受け止めと五分の見込み・年末か来年初めの再飛行・ドッキング試験は早ければ来年夏・ケネディとルイジアナの発射場)
- NASA (2026-02-27: アルテミス III は 2027 年に地球低軌道での試験・着陸船とのランデブーとドッキング・アルテミス IV の着陸は 2028 年)
- NASA 監察総監室 報告書 IG-26-004 (2026-03: 貯蔵庫と 10 機超のタンカー・推進剤移送試験の 12 か月遅れ・最大級の技術課題)
- Exolaunch (2026-09-21: 2029 年に Starship で打ち上げる Starfall ミッションの契約・荷物の種類)
- SpaceX Starfall Demo (2026-06-23: Falcon 9 で実証機を打ち上げ)
- FAA 決定記録 (2026-01-29 署名: LC-39A から年最大 44 回の打ち上げ)