イラン外務省のバガイ報道官が8月13日、ホルムズ海峡の今後の取り決めには環境保護が含まれるべきだと述べた。ケシュム島沿岸の油濁を挙げ、「この海峡の商業航行から利益を得るすべての当事者は、環境被害を回復する法的かつ道義的な義務を負う」と主張している。通航に値段をつける理由が、安全でも役務でもなく「環境コスト」として語られ始めた。海の向こうの話に見えるが、輸送経路にかかる費用は電気やガスの請求書まで下りてくる。しかも日本では、その下り方が制度としてすでに決まっている。
いま決まったのは、金額ではなく「請求してよい理由」のほう
先に範囲を絞りたい。バガイ報道官が示したのは主張であって、制度ではない。誰が補償を負うのかについても、エネルギー消費国なのか、船舶保険の引受手なのか、この地域で軍事行動をとった国なのかを問いの形で並べており、結論は出していない。料率も、徴収の仕組みも、時期も示されていない。
金額の形も定まっていない。4月の報道では1隻あたり100万〜200万ドル、あるいは1バレルあたり1ドル相当という数字が伝えられていた。同じ報道は、自然の海峡に強制的な通行料をかけた前例が第二次大戦後に無いこと、国連海洋法条約が海峡の通過通航は妨げられてはならないと定めていることにも触れている。課金してよいのかどうかから、まだ争いがある。
海峡が完全に止まっているわけでもない。米エネルギー長官のライト氏は、海峡をおよそ日量900万バレルが通過し、湾から複数の経路で出ていく量は日量1,500万バレル程度だと述べたと伝えられている。
決まったのは、値段を請求する理由の語り方だ。それが「環境被害の補償」になった。
事件は収まるが、設計は残る
この違いは小さくない。
封鎖や攻撃は事件だ。起きているあいだ値段は跳ね、収まれば戻る。国際海事機関(IMO)は、この海域でおよそ2万人の船員と港湾労働者・洋上作業員が影響を受け、3月から8月にかけて死傷を伴う事案が繰り返し記録されていると整理している。安全にかかる費用は、すでに現実のものだ。
通行料は事件ではなく設計だ。いったん決まれば、船が通るたびに乗る。値段の性質が「跳ねて戻るもの」から「常に乗っているもの」へ変わる。
それが実際にいくらになるのかは、まだ誰にも分からない。分かっているのは、上乗せが起きたときに、それが家庭に届く経路のほうだ。
電気代に届くまでの経路は、すでに設計されている
日本の電気料金には燃料費調整制度がある。資源エネルギー庁の説明では、原油・LNG・石炭の貿易統計価格——為替を反映した円建て・日本着ベースの価格——の変動を、毎月の電気料金に自動で反映する仕組みだ。
効き方には時間差がある。各月に使われる「実績燃料価格」は、その月の3〜5か月前の3か月平均で計算される。平成21年度の見直しで、反映までの期間は最短2か月に短縮された。同庁は例として、12月〜翌2月の燃料価格が同年5月の料金に反映される、と書いている。
ここが読みどころだと思う。今日の海の出来事は、今日の請求書には出ない。数か月ずれて出る。だから「上がってから考える」を選ぶと、考え始めた時点で次の数か月分はもう確定している。
上限もある。大手電力の規制料金では、反映できる幅に基準燃料価格の1.5倍という上限が設けられている。ただしこれは規制料金についての説明で、自分の契約がどの区分に当たるのかは、検針票や契約内容を見ないと分からない。
そして「円建て・日本着ベース」という条件は、輸送にかかる費用だけでなく為替もこの同じ経路を通る、という意味になる。
緩衝材は「何を買うか」ではなく「何から守られたいか」で選ぶ
自分の側に置けるものを考えるとき、混ざりやすい三つを分けておきたい。値段が上がること、供給が止まること、選べないこと。この三つは別の問題で、効く道具も違う。
太陽光や蓄電池は、止まることにはよく効く。値段が上がることに対しては、自家消費でまかなえた分だけしか効かない。しかも設備の費用は前払いで、効き目は何年もかけて戻ってくる。
その戻り方について、経済産業省の検討会は数字を置いている。太陽光の自家消費による収益で投資を回収でき、導入した方が経済的に有利になる状態——ストレージパリティ——が成り立つには、工事費込み・税抜で7万円/kWh以下の価格水準が必要と試算された。達成年として置かれたのは2030年度で、比較として示された2019年度の実績ベースの価格は18.7万円/kWhだった。制度の側の想定においても、家庭用蓄電池は「まだ元が取れる価格ではない」ところから始まっている。
同じ資料には、もう一つ大事な整理がある。停電時にも使えるというレジリエンス価値は、需要家によって水準が大きく異なり定量評価が難しいため、目標価格には含めず参考値とする、とされている。裏を返せば、「元が取れるか」の計算式には、そもそも備えとしての価値が入っていない。備えとして買うなら、回収年数で判断しても答えは出ない。
ここに挙げた数字は検討会が置いた前提のものであって、いま買うときの相場でも、いま使える補助の額でもない。国と自治体の補助は年度ごとに変わるので、実際の負担は導入する時点で確かめるしかない。
向かない条件もはっきりしている。賃貸や集合住宅では、設備そのものを置けないことが多い。回収に何年もかかる買い物は、その前に引っ越す可能性と釣り合わない。保存食や燃料の備蓄は初期費用こそ小さいが、置ける量は住まいの条件と法令の範囲で決まるし、期限の管理がずっと続く。
通行料が実際に課されるのか、いくらになるのか、日本の輸入価格にどれだけ乗るのか——どれもまだ決まっていない。決まっているのは、上乗せがあれば数か月遅れで請求書に出るという経路と、その時に自分が何を持っているかだけだ。
だとすれば、先に決めておくのは買うものではなく順番だと思う。値段が上がることに備えたいのか、止まることに備えたいのか、選べない状態を減らしたいのか。三つとも同時には買えない。
あなたの暮らしは、そのうちのどれが起きたときに、いちばん困るだろうか?