Google は米国時間 10 月 1 日、衛星画像の企業 Planet と共同で、AI 向けの演算チップ TPU を 4 基載せた試作衛星を、SpaceX の相乗り打ち上げ便 Transporter-18 で軌道に上げたと公式 X で発表した。宇宙に機械学習の計算基盤を置けるかを探る長期研究「Project Suncatcher」の最初の一歩で、今後数週間、打ち上げの衝撃や放射線、極端な温度差の中で TPU がどう振る舞うかのデータを集める。
AI の計算が食う電気は、家庭と同じ発電所と送電網から来ている。宇宙で計算するという発想は、その電気をどこから持ってくるかという問いへの、かなり遠回りな答えの一つだ。
宇宙の太陽光は地上の最大 8 倍
Google Research が 2025 年 11 月に公開した設計の検討によると、適した軌道では太陽光パネルの発電量が地上の最大 8 倍になり、ほぼ途切れずに発電できるため蓄電池の必要も減る。想定するのは、昼と夜の境目の上空を回り続ける高度約 650km の太陽同期軌道だ。81 機の衛星を半径 1km の範囲に密集させ、衛星同士をレーザー光でつなぐ構成を例に挙げ、地上の試験では 1 組の送受信機で双方向合計 1.6Tbps の通信に成功したとしている。
チップ側の試験も先に進めていた。Google は Trillium 世代の TPU にカリフォルニア大学デービス校の施設で放射線を当て、5 年間の宇宙での任務で浴びる量を上回っても耐えたとしている。研究ブログの数字では、5 年分の想定 750rad(Si) に対し、メモリーに異常が出始めたのは 2krad(Si) からで、15krad(Si) まで壊れる故障は出なかった。
データセンターの電気は 2030 年に 2 倍超
宇宙を目指す理由は地上の側にある。国際エネルギー機関 (IEA) によると、データセンターは 2024 年に世界の電力消費の約 1.5%、415TWh を使った。2030 年にはこれが約 945TWh と 2 倍超に増える見通しで、今の日本全体の電力消費をわずかに上回る規模になる。
データセンターが増える地域では、発電所や送電線をどれだけ増やすか、その費用を誰が負うかが、家庭の電気の話と地続きになっていく。宇宙で計算できれば、AI の電力の一部を地上の送電網から切り離せる。AI を使う便利さと、家の電気の取り合いを、別々に考えられるようになるかもしれない。
冷却と打ち上げ費用という壁
ただし、まだ実験の入り口だ。今回の試作は 1 機で、Google が次の節目に置くのは、2027 年に 2 機を軌道に置いて衛星同士の通信を試すこと。研究ブログは、熱の逃がし方、地上との大容量通信、軌道上で壊れずに動き続けることを課題に挙げている。真空では空気で冷やせないため、チップの熱はヒートパイプと放熱板で宇宙へ逃がす。打ち上げの際には機体全体に重力の最大 10 倍、個々のチップには 50〜100G がかかる。
費用の前提も先の話だ。研究ブログは、打ち上げ費用が 2030 年代半ばに 1kg あたり 200 ドルを下回れば、宇宙のデータセンターは電力 1kW・1 年あたりの費用で地上と並びうると見積もる。その値下がりが来るまでは、地上のデータセンターより高くつくということでもある。
確かめられる次の一点は、この先数週間で Google が出す軌道上のデータだ。TPU が放射線と温度差の中で計算を続けられたかは、Google 公式ブログの Project Suncatcher の続報で示される。2027 年の 2 機の打ち上げが予定どおり進むかも、計画の現実味をはかる目安になる。
宇宙の計算基盤が形になっても、それを選ぶのは AI を提供する企業で、使う側はその電気の出どころをふだん意識しない。AI に頼む回数が増えるほど、計算がどこの電気で動いているかを知る手がかりの価値は上がっていく。
ことば
- TPU — Google が自社で設計した、機械学習の計算に特化したチップ。今回の試作衛星には Trillium 世代が 4 基載っており、地上で動く同じチップが宇宙の放射線と温度差に耐えられるかが試される。
- 太陽同期軌道 — 毎日同じ地方時に同じ場所の上空を通る軌道。昼と夜の境目に沿う軌道を選ぶと、衛星はほぼ常に日の当たる側にいられるため、太陽光で途切れず発電できる。
あなたが毎日使う AI の計算がどこの電気で動いているか、知りたいと思うだろうか?