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LIFEMAKERS.COM — 自立型ライフの実践知カタログ
VOL. 2026-07
解説・分析生き方と宇宙FUTURE LIFE BRIEF

IEAが数えた「電気が余る時間」——「いつ使うか」を選べる家と、選べない家

卸電力価格がマイナスになる時間が、いくつかの市場で常態になった。ただしIEAはそれを「電気が余っている」証明とは書いていない。家の側に「ずらせる需要」がどれだけあるか、という話でもある。

IEAが数えた「電気が余る時間」——「いつ使うか」を選べる家と、選べない家のイメージ

この記事でわかること

  • IEAの年央改訂では、卸電力価格がマイナスになる時間はスペインで2026年上半期の17%(前年10%)、南オーストラリアとカリフォルニアで約20%。日本はこの集計の対象に入っていない
  • IEAはマイナス価格を「電気が余っている証明」ではなく、余りを吸収する柔軟性が足りないサインと整理している。スウェーデンとフィンランドが6%前後から2%へ下げた背景は、自動化された調整市場・電気ボイラーのような動かせる需要・蓄電池
  • 家の側で時間をずらせるのは給湯・EV充電・洗濯など。夕食の調理や猛暑日の冷房はずらせず、価格のピークはそこに立つ。市場に連動する契約は安い時間と高い時間の両方を渡してくる

IEAが7月に出した電力市場の年央改訂によると、卸電力価格がゼロを下回る時間は、いくつかの市場でもう珍しいものではなくなった。スペインでは2026年上半期の17%の時間で価格がマイナスになり、前年同期の10%から増えている。南オーストラリアとカリフォルニアでは約20%。IEAは8月9日にも、この頻度の上昇は電力システムにもっと柔軟性が要ることを示している、と改めて発信した。ここで言う柔軟性には、蓄電池のような設備だけでなく、需要を動かすことも含まれる。つまり、使う側の話でもある。

マイナス価格が起きているのは、卸売市場のほうだ

語を正確にしたい。ここで数えられているのは卸電力市場の時間別価格であって、家庭に届く請求書の金額ではない。対象も世界全体ではなく、報告書が分析した市場——スペイン、フランス、ドイツ、オランダ、ポーランド、英国、スウェーデン、フィンランド、オーストラリアの南オーストラリアとビクトリア、カリフォルニアとテキサスの各エリア——に限られる。日本は卸売価格の水準としては登場するが(第2四半期の平均が約90ドル/MWh、前年比30%超)、マイナス時間の集計対象には入っていない。

もう一つ。IEAの整理では、マイナス価格は「電気が余っている」ことの証明ではない。技術的・規制的・契約上の制約によって、その余りを吸収できていないサインだとされている。5月1日、ヨーロッパの多くの国で祝日だったこの日、太陽光の出力が強く需要が低い状況が重なり、ベルギー・ドイツ・フランス・オランダ・ポーランドで価格はマイナス500ユーロ/MWh近くまで落ちた。

余っているのは電気で、足りていないのは動かし方のほうだ。

数字が下がった場所で、何が起きていたか

頻度が上がった市場ばかりではない。スウェーデンとフィンランドは逆に下がった。前年の6%前後から2%へ(報告書の詳細部分では5〜7%から約1%と書かれている)。

IEAが挙げる理由は複数ある。水力の貯水位が低く価格が下支えされたこと。2025年3月に始まった北欧の自動化された共同調整市場が、変動する再生可能エネルギーの発電側に、価格に応じて出力を絞る動機を与えたこと。発電事業者がリアルタイム制御に投資したこと。そして電気ボイラーのような動かせる需要と、増えていく蓄電池。

南オーストラリアは20%超のまま横ばいだが、これにも理由がある。急速に増えた蓄電池が増加を打ち消した、とIEAは説明している。

どちらも、誰かが我慢して電気を使わなかったという話ではない。数字を動かしたのは、自動で動く仕組みと、置かれた設備のほうだった。

家の中で動かせるものと、動かせないもの

同じ日の中の値段の差は、かなり大きくなっている。6月24日、ベルギー・ドイツ・オランダでは、日中の底値と夕方のピークの差が600ドル/MWhに達した。

家に引き寄せると、時間をずらせるものとずらせないものは、わりとはっきり分かれる。給湯、EVの充電、洗濯機や食洗機、蓄電池への充電は、深夜でも昼でも構わない類だ。一方で夕食の調理、夜の照明、猛暑日の冷房は動かせない。そして価格のピークが立つのは、たいていその動かせない時間帯に重なる。

だから「安い時間に使う」は、聞こえるほど簡単ではない。

同じ仕組みが、安い時間だけでなく高い時間も渡してくる。価格に連動する契約に切り替えるということは、マイナス価格の恩恵と、逼迫時の跳ね上がりの両方を引き受けるということだ。今回の報告書自身、南オーストラリアで2026年第1四半期に、供給が逼迫し系統に制約がかかった日、価格がオーストラリアドルで5,000/MWhを超える場面が何度もあったと記録している。

設備で解く場合は、初期費用が先に出る。蓄電池やEVを使って契約と切り離し、自分の家の中で時間をずらすやり方は、価格の変動から距離を取れる代わりに、費用を取り戻せるかどうかは価格差の大きさと頻度に依る。今回の報告書は家庭の採算を計算していない。そこは自分の契約と使用量で見るしかない。

手でやると続かない、という点もある。北欧で効いたのは自動化された市場と制御であって、人の心がけではなかった。

そして、この報告書が数えたのは卸売市場の時間であって、家庭部門がそのうちどれだけを動かしたかの内訳は無い。

まず確かめられるのは、自分の契約のほうだ

費用ゼロで確認できることが一つある。自分の家の電気料金が、使う時間帯によって変わる契約なのかどうか。変わらないなら、昼に回しても夜に回しても支払いは同じで、ずらす金銭的な動機は無い。それは失敗ではなく、その家には価格の信号が届いていない、というだけのことだ。

選択肢は、おおよそ三つある。何も変えない。時間帯や市場に連動する契約に移り、安い時間と高い時間の両方を受け取る。あるいは設備を入れて、契約が何であれ自分の側で使う時間を決められるようにする。どれが合うかは、家の中に「ずらせる需要」がどれだけあるかで変わる。給湯もEVもない家では、ずらせる余地そのものが小さい。

電気は長いあいだ、いつ使っても同じものとして扱われてきた。値段が時間で変わり始めると、「いつ使うか」が初めて選択になる。あなたの家には、ずらせる需要がどれくらいあるだろうか?

参照

あなたの暮らしで、最初に試せることは何でしょうか。