米証券取引委員会 (SEC) は 3 月 17 日に出した解釈で、ステーキングに参加するノード運営者の仕事を「事務的・定型的」なものと位置づけ、受け取る報酬を「ネットワークに提供する役務の対価」と書いた。9 月 25 日には企業金融局のスタッフが FAQ を公表し、リキッドステーキングで受け取る預かり証トークンを証券ではない区分に分類した。
投資の話として語られることの多いステーキングを、「手を動かして受け取る報酬」の側から見直す材料がそろった。その報酬を、自分の稼ぎ方の一つに数えるかどうか。判断の前に、文書が言っていることの範囲と、実際にかかる手間を並べておきたい。
SEC の文書が言っていること、言っていないこと
まず範囲を絞る。3 月の解釈は、米国の証券法をステーキングにどう当てはめるかを示した文書だ。ブロックの検証に参加して報酬を得る行為は、他人の経営努力から利益を期待する投資契約には当たらない、という理屈が中心にある。運営者が報酬額を保証したり設定したりしないこと、手数料は定額でも割合でもよいこと、といった条件もついている。
言っていないこともある。労働法や税金について述べた部分はなく、報酬を給与と同じに扱うとも書いていない。9 月 25 日の FAQ も、法的な効力を持たないスタッフの見解だと冒頭で断っている。そして、日本の法律はこれらの文書では何も変わらない。
それでも、規制当局が報酬を「利回り」ではなく「役務の対価」という言葉で説明したことには意味がある。ネットワークを動かし続ける作業に値段がつく、という見方が公式の文書に書かれたからだ。
動かす・委ねる・預ける、3 つの関わり方の手間
SEC の解釈は、ステーキングへの関わり方を大きく 4 つに分けている。個人の暮らしに引き寄せると、次の 3 つに整理できる。
- 自分でノードを動かす — 機材と回線を用意し、止めずに動かし続ける。秘密鍵も自分で守る。ネットワークによっては、不正や障害があると預けた資産の一部が没収される「スラッシング」の仕組みがあり、運用の失敗がそのまま損失になる
- 運営者に委ねる — 資産と鍵は手元に置いたまま、検証の権利だけをノード運営者に渡す。手間は小さいが、運営者に手数料を払い、運営者の選び方が報酬を左右する
- 事業者に預ける — 交換業者などに資産を預け、代わりに運用してもらう。手間は最小だが、資産は事業者の管理下に移る。リキッドステーキングの預かり証トークンは預けたまま取引に使えるが、FAQ は預かり証の条件として、発行者が預かった資産を貸したり担保に入れたりできないことを求めている
「仕事」と呼べるのは、1 つ目だけかもしれない。機材の保守、ソフトの更新、停止しないための監視は、小さなインフラを運営する作業そのものだ。ただし報酬は暗号資産で支払われ、受け取る量が同じでも、日本円に換えたときの価値は相場とともに動く。報酬の量を決めるのも、働いた時間より、預けた量とネットワークの仕組みのほうだ。
また、ステークした資産は、ネットワークの定める解除待ちの期間 (アンボンディング期間) のあいだ動かせないことが多い。必要なときにすぐ現金にできる前提で組み込むと、生活の計画が崩れる。
日本で受け取るなら、制度と税の現在地
日本では 7 月 15 日に、暗号資産を金融商品取引法 (金商法) の対象に移す改正法が成立し、7 月 23 日に公布された。暗号資産の部分は公布から 1 年以内に施行される。この改正で、利用者から暗号資産を借り入れる業務が規制の対象に加わった。土台になった金融審議会ワーキング・グループの報告は、借りた暗号資産をステーキングで運用する事業では、利用者が事業者の信用リスクやスラッシングのリスクを負うとして、リスク説明や広告規制を求めている。事業者に預けるときは、それが「預かり」なのか「貸付け」なのかを確かめることになる。
税の扱いは変わっていない。国税庁の FAQ (問 1-7) は、ステーキングで得た暗号資産を、取得した時点の時価で所得の収入に算入し、ステーキングにかかった費用は必要経費に算入するとしている。受け取った時点で課税されるので、その後に値下がりしても、受け取った時の価値で所得が確定する。暗号資産取引の所得は原則として雑所得に区分される (問 2-2)。
令和 8 年度税制改正の大綱は、登録された暗号資産を取引業者に売却した所得を 20% の分離課税とし、改正金商法の施行日が属する年の翌年 1 月 1 日から適用するとした。ただし大綱にステーキングという言葉は出てこない。報酬を受け取る時点の扱いについては、現行の考え方が基準のままだ。
役務として続けられるかを測る
ネットワークの保守に参加することを稼ぎ方の一つに数えるなら、手元で確かめられる問いはいくつかある。機材と電気代と時間を差し出して、止めずに動かし続けられるか。報酬の価値が半分になっても続けたいと思えるか。受け取った時点の時価を記録し、確定申告まで管理できるか。
日本の制度の細部はまだ決まっていない。取り扱える暗号資産の基準や事業者の体制は、改正金商法の施行に向けて金融庁が示す内閣府令で決まる。金融庁の報道発表資料に内閣府令案の意見募集が載ったとき、交換業者を通じたステーキングの条件がはっきりする。
ことば
- ノード運営者 — ブロックチェーンの取引を検証し、新しいブロックを作る役割を担うコンピュータの運営者。ステーキングでは、自分の資産か委任された資産の量に応じて検証に参加し、報酬を受け取る。
- スラッシング — 不正や重大な障害に対する制裁として、ステークした資産の一部が没収される仕組み。採用するかどうかや没収の条件はネットワークごとに違い、運営の失敗がそのまま損失になる。
- 預かり証トークン — リキッドステーキングで資産を預けた人が受け取るトークン。預けた資産と報酬を請求できる証明で、預けたまま取引や担保に使えるため、流動性を保ったままステーキングできる。
自分の時間と機材でネットワークを支える側に回るのか、手数料を払って委ねるのか、それとも今は関わらないのか。あなたの暮らしの中で、無理なく続けられるのはどの形だろうか?
参照
- SEC 解釈リリース 33-11412 全文 (2026-03-17・V.B プロトコルステーキング / 報酬を役務の対価とする記述)
- SEC 企業金融局 FAQ (2026-09-25・問い 1.2 預かり証トークンの分類 / 問い 1.3 預かり証の条件)
- 金融庁 改正法案の説明資料 (借入れ業務の追加・施行期日 = 暗号資産は公布から 1 年以内)
- 金融審議会 暗号資産制度に関するワーキング・グループ報告 (2025-12-10・「暗号資産の借入れ」)
- 国税庁 暗号資産等に関する税務上の取扱い FAQ (問 1-7 ステーキング等で取得した場合 / 問 2-2 所得区分)
- 財務省 令和 8 年度税制改正の大綱 (特定暗号資産の分離課税と適用開始日)
- 衆議院 議案経過 (改正金商法・2026-07-15 成立・7-23 公布・法律第 64 号)