Chef Robotics が8月27日、食べ物の「世界モデル」を作りはじめたと公開した。自社のロボットが製造ラインで作ってきた1億3,000万食を超える記録を学習させ、これから掴む量と、掴んだ後に食材の表面がどうなるかを予測させる。器用な手を設計する話ではない。扱いにくい相手を、機械が動く前に想像できるようにする話だ。
この「世界モデル」が予測しているのは、2つだけ
語の範囲を先に絞っておきたい。ここでの世界モデルは料理を理解するものではない。公開された第1部が予測するのは、ロボットが掴む重さと、掴んだ後に残る食材表面の形の2つだけだ。対象も家庭の台所ではなく、工場の盛り付け工程にある。
数字は出ている。9種類の食材の実データで、重さの誤差は13.6グラムから10.3グラムに縮み、掴んだ後の表面の誤差は42%減った。派手な数字ではない。ただ盛り付けは、規定量に届かなければやり直しになる工程だ。数グラムは、その境目に効く。
効いているのは器用さではなく、秤
食べ物は硬い物体ではない。粒でできていて、変形し、くっつき、粘り、温度で変わる。だから物理法則を書き下してシミュレーションする方向は行き止まりになりやすい。
そのかわりにこの会社が持っていたのは、実測だ。ロボットが1食盛るたびに、どんな動作をしたかと、実際に何グラム取れたかが秤に残る。人が後から正解を書き込んだデータではなく、作業そのものが正解を吐き出している。1億3,000万という数は、この構造が回り続けた時間の長さでもある。
ここが本筋だ。機械が食べ物を扱えるようになる鍵は、指の設計よりも、結果が自動で数字になる工程を先に持っていたかどうかにある。
まだ、できていないこと
同社は次の課題も並べている。1億3,000万食の全データでの学習はこれからで、全食材・全拠点への拡張もこれからだ。予測される表面はまだぼやけていて、掴む動作が周囲に与える副次的な変化を取りこぼす。
そして肝心のループが閉じていない。取れる量を予測できるようになったら、次は問題を裏返して、狙った重さに最も近づく掴む深さを決められる——というのが同社の書く次の段階だ。つまり、ロボットが動く前に候補の動作を予測モデルにかけて選ぶところまでは、まだ来ていない。「第1部」という題は、そのままの意味だと読める。
家の台所に、これはいつ来るのか
家庭に、この構造はない。同じ食材を同じ工程で何万回も繰り返す場面がないし、結果を毎回測る秤もない。だから調理を担う機械が入ってくる順番は、器用な機械が売り出されてから台所に入るのではなく、結果が数字で残る工程から先に入る、という順番になりやすい。
自分の暮らしに引きつけるなら、判断軸は2つでいい。その作業は同じ手順の反復か。そして、うまくいったかどうかが自動で数字になるか。両方が揃っているところ——重さ、時間、温度、電力量、収穫量——には、遅かれ早かれ機械が届く。揃っていないところ——味の好み、盛り付けの見栄え、その日の体調に合わせる判断——は、当分こちら側の仕事のままだ。
そして、揃えにいくこともできる。台所の秤を1つ増やす、収穫量を月ごとに記録する、それだけで工程は測れるものに変わる。ただし測ると決めた瞬間から、記録する手間と、数字に引っぱられる窮屈さも一緒に来る。全部を測る必要はないし、測らないと決めた領域が残ることのほうが自然だ。
あなたの暮らしで、すでに数字になっているのはどの工程だろうか。そして、数字にしたくないのはどれだろうか?