Revolutが、ユーロと1対1で連動するトークンEURRを、デンマーク・ポーランド・ポルトガルの一部利用者に配り始めた。発行しているのはRevolut本体ではない。つまり銀行アプリの残高欄に、銀行の預金ではないユーロが並ぶ、ということだ。持つかどうかを決める前に、持つと何を手にして何を手放すのかを見ておきたい。
まず、誰が何を配り始めたのか
範囲を正確にしておきたい。対象は欧州経済領域(EEA)のうち3か国で、初期に関わるのはおよそ200万人と説明されている。Revolutの利用者は世界でおよそ8,000万人とされるので、いま手が届くのはその一部だ。日本からは使えない。
発行体はBridge Building S.A.。ルクセンブルクの金融監督当局CSSFから電子マネー機関と暗号資産サービス業者の免許を受けた会社で、Stripe傘下のBridgeの欧州法人にあたる。アプリで配るのはRevolut Digital Assets Europeだ。「Revolutのユーロ」ではなく、「Bridgeが発行したユーロを、Revolutの画面で受け取る」と読むほうが実態に近い。
当初はイーサリアム上で動き、外部のウォレットへ送り出せる設計になっている。対応するチェーンは順次増やすとされる。法定通貨とのやり取りには手数料もスプレッドもかからず、暗号資産の取引・送金の通常の上限が適用される。
なお、ここから先の細かい条件は、発行体が公表した説明書きを扱った複数報道が一致して伝えている内容による。発行体とRevolut自身の発表は公式一次ソース未確認で、条文そのものにあたれるのはEU規制の側だけだ。
同じ残高欄に並んでも、預金とは別のものだ
EUの暗号資産規制MiCAでは、EURRのようなトークンは「電子マネートークン」に分類される。そしてMiCAは、この種のトークンを預金として扱わない。預金保険の指令(2014/49/EU)が守る対象から、設計として外れているという意味だ。銀行が潰れたときに一定額まで戻ってくる、あの仕組みの外にある。
代わりに置かれているのが、額面で返してもらう権利だ。MiCAは、保有者に常に額面での償還権が与えられるべきだとしている。守ってくれるのは保険ではなく、発行体に返させる権利のほうだと言い換えてもいい。
もう一つ、生活の側に効く条文がある。MiCAは、発行者もサービス提供者も、電子マネートークンの保有者に利息を与えてはならないと定める。保有期間に紐づかない形の利息も含めて、だ。EURRも、準備金の運用で収益が出たとしても保有者に利息を払わないと説明されている。置いておいても増えない。
1対1は価格の約束であって、保護の約束ではない。
「額面で返す」には、手順と条件が付いている
償還そのものに手数料はかからないとされる。ただし本人確認などの審査を通り、有効なIBANを持つEEAの銀行口座を示す必要がある。ユーロが着くまで2営業日。押せば即座に戻るボタンではないし、EEAの銀行口座を持たない人にとっては、出口が最初から狭い。
準備金は流通量と同額以上をユーロで持つ決まりで、独立した会計事務所が毎月確認すると説明されている。ただしその説明書きに、確認する会計事務所の名前は書かれていない。
いちばん見落としやすいのは、その先だ。発行体は回復計画と償還計画を当局に提出することになっており、そうした枠組みのもとでは、強いストレスがかかった局面で償還に上限を設けたり、手数料を課したり、一時的に止めたりすることが認められうる。「いつでも額面で」は、平時の話として読むのが正しい。
そして、まだほとんど動いていない。公開開始から数日後の時点で、流通量は374EURRと報じられた。同じユーロ建てで先行するCircleのEURCがおよそ4億300万ユーロなので、桁がいくつも違う。使える場所も、送る相手も、これから作られる段階にある。
自分の残高を、どの種類のユーロで置くか
置き場所は、お金の用途で変わる。数日のうちに動かす予定のお金なら、利息が付かないことはほとんど関係がない。数か月置くお金なら、そこは効いてくる。国境を越えて送る途中で持つだけなら、出口がIBAN経由の2営業日でも困らない。生活費の置き場として考えるなら、そこが引っかかる。同じ「ユーロ」でも、預金とトークンで向き不向きが分かれるということだ。
日本ではまだ選べない。Revolutは他の通貨建ても開発中だと説明しているが、いつどこに来るかは決まっていない。それでも、この形——アプリの中で、預金と、預金ではない残高が同じ顔をして並ぶ——は、通貨を変えて順に出てくるとみていい。
選べるようになってから調べるのでは、たいてい遅い。返してもらう相手は誰か、返してもらうのに何が要るか、返してもらえなくなる条件は何か。確かめる項目は、いまのうちに作れる。
口座の残高が「預金」でなくなるとき、あなたは何を確かめてから、そこに置くだろうか?