Agility Robotics が8月13日、自社CEOペギー・ジョンソン氏の言葉をXに引いた。「ロボットを作ってから安全にすることはできない。それは設計のやり直しだ」。引用元は7月5日のTechCrunchの取材記事で、同じ記事で彼女は家庭にヒューマノイドが入るまで「10年以上」という見通しも示している。作っている側が家庭を最後に置いている、という順番の話だ。
「後から安全にする」が意味すること
まず範囲を絞りたい。これは安全性一般についての知見ではなく、同社が自社の差別化として語っている立場だ。ジョンソン氏は安全性を競合との最大の違いだと述べ、実際に顧客の現場へ入れるには産業用の安全認証が要ると説明する。対象は電気系統、部品、そしてそれを支えるソフトウェアにまで及ぶ。
彼女が対置しているのは、振り付けられた実験室のデモだ。決められた床で決められた動きをする映像と、認証を通して他人の職場に置かれる機械は、見た目が同じでも作りが違う。後者は最初から安全側の制約を織り込んで設計されている必要があり、それを後から足そうとすれば設計のやり直しになる——というのが引用された一文の中身である。
見ている側からは、この差は映像では分からない。
家が最後に来る理由
Digit は身長約175センチ、重さ約73キロの二足歩行ロボットだ。いま働いているのは家庭ではなく倉庫と工場で、顧客にはGXOロジスティクス、アマゾン、トヨタのカナダ工場、シェフラー、メルカドリブレの名前が並ぶ。製造拠点はオレゴン州セイラムにあり、広さは約6,500平方メートルとされる。
売り方も、個人が買う形ではない。同社が確保しているのは複数年で3億ドル超の受注残で、台数にして約1,000台。顧客は月額を払ってロボットを使う、ロボット・アズ・ア・サービスと呼ばれる形をとる。
ジョンソン氏が家庭を遠くに置く理由は、賢さではなく環境だ。倉庫は構造化されている。通路の幅が決まっていて、棚の位置が決まっていて、床に何が落ちているかの想定が置ける。家はそうではない。床に置かれるものが毎日変わり、子どもと動物が予告なく動き、間取りは一軒ごとに違う。
朝食をベッドまで運ぶヒューマノイドは「すぐには」来ない、と彼女は言う。これは技術の否定ではなく、順番の説明だ。
待つ側が、いま持てる判断軸
「10年以上」は確定した予定ではない。作っている当事者の見通しであり、当事者の見通しは早まることも遅れることもある。だから日付をあてにするより、見分け方を持っておくほうが役に立つ。
たとえば、新しいロボットの映像を見たとき。それは実験室の中か、他人の職場の中か。認証や規格の話が出てくるか、動きの滑らかさだけが語られるか。売り方は買い切りか、月額で借りる形か。売り方は、作った側がその機械をどこまで自分で面倒を見るつもりかを映す。
家庭に先に届くものがあるとしたら、それはたぶん人型ではない。掃除機や洗濯機がそうだったように、一つの仕事に絞った形のほうが、構造化されていない部屋には入りやすい。人型を待つことと、いま入れられるものを入れることは、別の判断だ。
自分の部屋を思い浮かべてほしい。床に置いてあるもの、動線の狭いところ、家族と動物の動き方。そこに機械を入れるとしたら、あなたはまず何を任せて、何は任せないだろうか?