千葉県の熊谷俊人知事は 9 月 27 日、台風 25 号で堤防が決壊した印旛沼の現場を地上から視察し、沼の水位が同日 16 時に 1.97m まで下がったと X で報告した。国土交通省が平常時の水位としている 2.3m を下回った。
知事は同じ投稿で、ここから先の水位低下は「経験の無い未知の領域」だと書いた。印旛沼は県民の上水道用水や工業用水、漁業に使われている。洪水を防ぐために水を抜くほど、蛇口の水の元が細る。水害と断水の備えが、同じ沼の中でぶつかっている。
決壊から 1 週間の復旧
千葉県の発表によると、9 月 22 日の台風 25 号の豪雨で、北印旛沼 (成田市船形干拓) の堤防が約 100m にわたって決壊し、角川 (成田市下方) と長門川 (栄町酒直) でも堤防の一部が壊れた。周辺では大規模な浸水が起きている。知事は、昭和 44 年以来初めての決壊だとしている。
国土交通省は 25 日、千葉県・水資源機構・関東地方整備局で「チーム印旛沼」をつくり、3 地区 4 か所の堤防の応急復旧、沼の水位を下げる排水、浸水した地区の排水 (排水ポンプ車を 30 台まで増やす) の三つを、台風 26 号の接近を見て 1 週間程度で進めると発表した。
知事の投稿によれば、工事は 25 日から 24 時間体制で続いている。まず決壊した箇所を仮にふさぐ荒締切 (あらじめきり) を台風 26 号までに終え、その後に仮堤防、さらに本復旧へ進む。日本テレビの 29 日の報道では、国土交通省は 28 日から石材の投入を始め、担当者は沼と水路を分ける締め切りが半分ほど進んだと話している。
4.26m から 1.97m へ
知事が示した水位は次のとおりだ。
- 23 日 11 時: 4.26m
- 25 日 11 時: 2.92m
- 27 日 16 時: 1.97m
排水機場のフル稼働と排水ポンプ車で、水を利根川と花見川へ流している。水位が下がるにつれ、周辺の浸水も少しずつ引いてきた。
投稿には、暮らしの備えに近い話も書かれていた。23 日には、排水ポンプを動かす燃料が確保できないという相談が県に届き、県が災害時の協定を結んでいる県石油商業組合と調整して燃料を確保したという。水を抜く機械も、燃料がなければ止まる。
下げすぎれば水道と工場が困る
知事は、治水の上ではできる限り水位を下げたいが、下げすぎれば県民の生活と工業が成り立たなくなると書いた。両方を見ながらの慎重な水位管理が要る、という。
長い目で見た課題にも触れている。印旛沼は利根川から東京湾までの広い範囲の治水の仕組みの中にある。堤防を高くして水位を高く保てるようにすると、今度は周りの川から沼へ水が流れ込みにくくなり、周辺が大きな水害に遭うおそれがある。知事は、流域全体で水をためる力と沼から水を出す力をどう高めるかを、国に検討してほしいと求めていくとした。
一つの沼が、洪水の受け皿であり、飲み水の水源であり、漁場でもある。どれか一つだけを最大にする答えはない。
台風 26 号の前に
ウェザーニュースによると、台風 26 号は 29 日朝の時点で日本の南の海上を北東へ進んでいる。30 日から 10 月 1 日にかけて伊豆諸島で荒天のおそれがあり、関東では前線の影響で 30 日まで雨が続く見込みだ。
確認できる次の一点は、千葉県の「北印旛沼の堤防決壊について」のページと、国土交通省の報道発表だ。台風 26 号の関東への接近が見込まれる 10 月 1 日ごろまでに、荒締切の完了が発表されるかを見たい。
印旛沼の近くに住んでいなくても、自分の暮らしに引き寄せて確かめられることはある。自宅の水道の水源がどの川や湖か。その水源が災害で使えなくなったとき、何日分の飲み水が家にあるか。停電で給水ポンプが止まる集合住宅なら、上の階に水が届かない時間はどれくらいか。備えの量は家族の人数や住まいで変わり、正解は一つではない。
ことば
- 荒締切 (あらじめきり) — 堤防が壊れた場所に石材や土のうを投げ込み、まず水の出入りを止める応急の工事。見た目は粗いが、次の雨で浸水が広がるのを防ぐための最初の一手で、その後に仮堤防、本復旧と段階を踏む。
- 排水機場 — 低い土地や沼にたまった水を、ポンプで高い川へくみ上げて流す施設。印旛沼では酒直機場や印旛機場がフル稼働し、災害時には動かし続けるための電源や燃料も備えの一部になる。
- 平常時の水位 — ふだんの状態で保たれている水位の目安。印旛沼では国土交通省が 2.3m としている。知事は、ここから下げていく局面では水道や工業用水とのバランスを見ながらの管理になるとしている。
あなたの蛇口の水は、どの川や湖から来ているだろうか?