アリババの Qwen が 9 月 18 日、映像と音声をまとめて理解し、その場で外部の道具まで呼び出す新モデル Qwen3.8-Omni-Flash を公開した。動画を読み込ませる費用は前世代の Qwen3.5-Omni-Plus 比で約 89% 下がったと同社は説明している。撮りためた動画を機械に預けるかどうかが、設備の話から料金表の話に移った。
1本のモデルに、見ると聞くと道具が同居した
Qwen3.8-Omni-Flash は、テキスト・画像・音声・動画を入力として受け取り、テキストで返すモデルだ。公式の説明によれば、見たものと聞いたものをまとめて推論し、長い作業のあいだ外部のプログラムを順に呼び出す関数呼び出しまでを 1 つのモデルで行う。用途として挙げられているのは、vlog の自動編集、短い動画の翻訳、映画からの要約作成だ。
扱える文脈は 100 万トークン。長い動画では全編を一様に読むのではなく、必要な場面を自分で探しに行く「エージェント的知覚」を使い、OmniVideoBench というベンチマークで静的な理解より 51.8% 少ないトークンで済んだと同社は述べる。エージェント性能は WildClawBench-MM と UniClawBench の平均で 19.5 ポイント上がった、音声・映像の能力は Gemini 3.8 Flash に迫る、というのがメーカー側の申告だ。
数値はいずれも Qwen 自身が出したもので、第三者による再現の報告はまだ出ていない。
値下げの範囲は、動画の入力に限られる
公式が明示しているのは動画入力のコストが前世代比で約 89% 下がったという 1 点で、モデル全体が 9 割安くなったという話ではない。QwenCloud の料金表に載っているのは 100 万トークンあたり入力 0.15 ドル・出力 0.47 ドル、キャッシュに当たった入力は 0.016 ドルという数字だ。動画ファイルについては、映像と音声が別々に課金されるとドキュメントに書かれている。
この値下げは、長い素材を丸ごと読ませる入口の部分に効く。1 時間の動画を一度投げて要約を作る、といった使い方で敷居が変わる。逆に、短いやりとりを何度も往復させる使い方では、効き目はそこまで大きくない。
引き換えに、音声で返す機能は落ちた
前世代の Qwen3.5-Omni は、音声で応答し、声を複製し、話す速さや感情まで調整できた。新しい Omni-Flash は音声を理解するが、返すのはテキストだけだ。入力できる音声・動画の長さも上限 2 時間、ファイルは 2GB までで、3 時間の音声や 1 時間の動画を受け付けた前世代より短い。入力側は 113 言語に対応する。
もう一つ。発表でオープンソース化が告げられたのは周辺のプラグイン群と Qwen-Live Harness で、モデル本体の重みについての言及はない。公式が案内した入口は QwenCloud、Alibaba Cloud Model Studio、Qwen Studio の 3 つで、いずれも手元の素材が自分の機械の外へ出ることを前提にしている。
開かれた側にも具体はある。Qwen-MM-Plugins は Apache-2.0 で公開されたプラグイン集で、動画から音楽動画や翻訳版を作る omni-chatcut、操作解説の動画を図入りの PDF に変える omni-video2note、実演動画を再利用できる手順に変える omni-skill-creator、長い動画に話者つきの記憶を作る omni-memory が入っている。どれも、個人が自分の素材に対してやりたくなる作業に寄っている。
ことば
- オムニモーダル — テキスト・画像・音声・動画を 1 つのモデルで受け取る方式。従来は文字用・画像用と分かれていた処理が 1 本にまとまり、動画のように複数が混ざる素材をそのまま渡せるようになる。
- 関数呼び出し — モデルが外部のプログラムを自分で呼び、結果を受け取って作業を続ける仕組み。この機能があるため、理解に加えて編集や検索といった実作業まで任せられる。
- コンテキスト長 — 一度に読み込ませられる情報量の上限。100 万トークンという規模は、長い動画や会議の録音を途中で切らずに渡せるかどうかを左右する。
自分の動画を、どこまで外に出すか
確かめる先ははっきりしている。自分の素材で試算するなら、Alibaba Cloud Model Studio のコンソールに出る料金表を開くことになる。モダリティ別の内訳は公開のモデル一覧には載っていないからだ。プラグイン側は GitHub の QwenLM/Qwen-MM-Plugins で中身を読める。もう一つ、発表時点で「coming soon」とされた Qwen-Live Harness が同じ場所に出てくるかどうかは、この路線をどこまで続ける気があるかの目印になる。
値段が下がると、これまで手間に合わないと諦めていた作業が候補に入ってくる。旅行の動画を短くまとめる。作業の記録を手順書に変える。家族の古い映像に、誰が写っているかの索引をつける。どれも、素材をいったん他社のサーバーへ渡すことと引き換えになる。
あなたの手元にある動画のうち、外に出してよいものと、出さないものの線はどこにあるだろうか?