9月17日、ヒト型ロボットを手がける Figure が、新しい制御モデル Helix 2.5 を公開した。ベイエリアで借りた30軒の家に、その家のデータをひとつも取らないまま機体を持ち込み、リビングの片づけ・タオル畳み・ベッドメイクの3つをやらせている。
3種を通した成功率は56%だった。ゼロから訓練した同じ構成の方策が9%だったのと比べれば差は大きいが、その差を作ったのは、一般の人がスマホで撮って送った自分の家事の映像だ。家事をするロボットの話であると同時に、家事を撮る側の話でもある。
「初見」がどこまでを指すか
先に語の範囲を絞りたい。ここでの「初見」は、評価に使った家と物が初めてという意味で、やらせる作業そのものが初めてという意味ではない。Figure は、ゼロショットとは評価環境と操作対象を指すのであって、タスクは別の場所で集めた調整用データで指定したと書いている。
絞られているのは作業の側も同じだ。リビングの片づけは散らばった13〜15個のおもちゃをかごに入れること、タオル畳みは全部を畳んでかごに収めること、ベッドメイクは枕と掛け布団の角を上側に置いて布団のしわを伸ばすこと。家事と呼ぶには狭い3つで、洗い物も調理も入っていない。
一方で、手心は加えられていない。評価に使う物は実験前に取り分け、作業指定用のデータに出てこないことを確認したという。事前学習のデータでも、ひとつの評価タスクが全体の1.90%を超えないようにしている。見たことのある部屋で見たことのある玩具を拾わせる、という抜け道は塞いである。
部分点なしの56%
56%は、途中まで片づけたら半分もらえる類の数字ではない。Figure は、作業を全部終えることを成功とし部分点は与えないと明記している。13個のおもちゃのうち12個をかごに入れて1個を取りこぼせば、その試行は失敗に数えられる。
裏を返せば、44%は最後まで終わらなかった。どのタスクで落ちたのか、1軒あたり何回試したのか、合計の試行数がいくつだったのかは公表されていない。タスク別の内訳がないので、ベッドメイクだけが極端に低い可能性も、3つが横並びの可能性も、外からは区別がつかない。
Figure 自身も、一般的なヒト型ロボティクスが解決したという話ではないと書いている。価格も、発売時期も、どの機体で走らせたのかも、この発表には出てこない。買える物が増えたわけではない。
その差を作ったのは、誰かの家の録画だ
9%と56%を分けたのは、Index と呼ぶデータの山だ。Figure が8月25日に公開したもので、集め方が変わっている。企業の施設で撮るのではなく、スマホアプリを入れた一般の人が、自分の家や職場での実作業を撮って送る。
公開時点の数字で、ダウンロードは108か国で26万4,000件、週に動いている利用者は4万4,000人、送られた映像は1,600万本、支払われた総額は1,500万ドル。映像は毎秒30分ぶん届いているとされ、Helix 2.5 の発表では毎秒およそ35分に増えたと書かれている。報酬は分単位で支払われる。
撮る対象として Figure が挙げているのは、ベッドを整える、洗濯物を畳む、カフェで客に出す、棚に品物を並べる、といった作業だ。評価に使われた3種と重なっていることに気づく。30軒で機体がやったのは、どこかの誰かが自分の家で撮って送った動作の再現に近い。
家事が学習素材になる経路は、すでに開いて動いている。
撮る側に回るか、回らないか
この経路に入るかどうかは、条件を見ないと決められない。分単位でいくらなのかは公表されていない。108か国の内訳も、年齢や必要な機材の条件も、紹介ページには書かれていない。
そして撮るとは、自宅を撮ることだ。ベッドと洗濯物と台所が映る。映像がどう保存され、どこまで使われ、消せるのかは、ページからプライバシーポリシーへのリンクが張られているだけで、そこからは読み取れない。分給として見るか、自宅の記録を渡す取引として見るかで、判断は変わる。
数字の動きは自分で追える。Figure の Index 紹介ページには、アプリのダウンロード数と支払総額が出ている。次に Helix の更新が発表されたとき、この2つがどれだけ動いているかを見れば、集める側がどれだけ払い続けたのかが分かる。アプリの配信ページを開けば、自分の国が対象かどうかも確かめられる。
ことば
- Helix — Figure が自社のヒト型ロボットを動かすために作っている AI。今回の 2.5 は、事前に学んだ人の作業を土台に、訓練していない家でもそのまま動くことを狙った版。
- ゼロショット — 追加の学習をせずに、初めての環境や対象に取り組ませること。今回は家と物が初めてという意味で、作業の種類自体は事前に教えてある。
- Index — Figure が運営する、一般の人がスマホで自分の作業を撮って送るデータ収集の仕組み。分単位で報酬が支払われ、集まった映像がロボットの事前学習に使われる。
あなたの家の家事は、誰かのロボットが学ぶ材料になってもいい作業だろうか?