米下院歳入委員会が9月16日、暗号資産の課税ルールを定める法案 H.R.10357 を賛成38・反対5で可決した。連邦法として暗号資産の課税の中身に踏み込む初めての法案だが、損益の計算が免除されるのは手数料の支払いに充てた10ドル以下の分だけで、コーヒー1杯を暗号資産で買う行為はこれまでどおり課税の対象になる。
暗号資産を口座に置いているだけの人と、日常的に送ったり検証に参加したりしている人とでは、この法案の効き方がまったく違う。法案本文から、何が軽くなり、何が変わらないのかを拾っていく。
10ドルの免除が届く範囲
法案の第101条は、内国歳入法に新しい1044条を置き、手数料の支払いに充てた暗号資産の譲渡損益を認識しないことにする。対象は二種類で、ほかの取引を検証してもらうために払うネットワーク手数料と、仲介・取引・流動性提供などに払う取引手数料。いずれも1回あたり10ドル以下という上限がつく。
免除には条件がある。適用されるのは2027年12月31日より後の処分からで、可決されてもすぐには効かない。そして前年に5,000回を超える送付をした人は、この免除から外れる。自動売買を回している人や、送金を日常業務として扱っている人は最初から対象外ということになる。
範囲は正確にしておきたい。ここで免除されるのは手数料に使った分であって、買い物そのものではない。少額の支払いのたびに取得価額との差を計算する手間は、この法案では消えない。
検証で得た報酬は、受け取った時点のまま
歳入委員会の発表は、マイニングとステーキングの税務上の扱いを明確にすると書いている。法案は検証活動から得た所得を通常所得として扱い、どこで得た所得とみなすかの源泉規則を置く。
一方で、報酬を受け取った時点ではなく売った時点まで課税を繰り延べる規定は入っていない。自宅でノードを動かしている個人にとっては、ここが実務の重さとして残る。受け取った瞬間の価格で所得が確定するので、売る頃に値が下がっていてもその差は埋まらない。いつ、いくら分を受け取ったかを自分で記録し続ける必要も、これまでと変わらない。
扱いが定まることと、手間が減ることは別だ。
株と同じ土俵に乗せる部分
第301条は、株式などに適用されてきたウォッシュセール・ルールと擬制売却ルールを暗号資産にも広げる。損失を出して売った直後に同じ銘柄を買い戻しても、その損失を税務上すぐには使えなくする仕組みで、適格な米ドルステーブルコインだけが対象から外れている。この条項の適用は法案の提出日より後の処分からで、ほかの条項より早い。
そのほかに、ディーラーと取引業者の時価評価、広く流通している暗号資産を寄付する際の手続きを上場株式並みに簡素にすること、過去の申告を修正して精算するための任意開示プログラムなどが並ぶ。緩和と規制が同じ法案に同居していて、どちらか一方の性格では読めない。
まだ動く
委員会が採決にかけたのは、提出時の本文そのものではなく代替修正案だった。ここまでに挙げた数字や日付が最終形である保証はない。本会議も上院もこれからで、前日には市場構造を定める CLARITY 法案が上院で否決されている。1月までに残る議会の作業日は5週間ほどだ。
委員会では反対も出た。テキサス州のロイド・ドゲット議員は、この委員会だけが業界への便宜を急いでいると批判している。賛成38・反対5という数字は、党派を超えた支持と、根強い異論の両方を同時に示している。
そして、これは米国の法案であって、日本の課税ルールを変えるものではない。それでも制度の違いを越えて効いてくるのは、いつ、いくらで、何を受け取ったかを自分の側で記録できているかどうかという点だ。ルールが細かくなるほど、記録の粒度が足りない人ほど手間が増える。
ことば
- ネットワーク手数料 — ブロックチェーンで自分の取引を処理してもらうために払う額。払うこと自体が暗号資産を手放した扱いになるため、現行制度では1回ごとに損益の計算が発生する。
- ウォッシュセール・ルール — 損失を確定させた直後に同じ資産を買い戻した場合、その損失を税務上すぐには認めない規則。米国では株式などに長く適用されてきた。
- 代替修正案 — 委員会が元の法案の全文を別の条文に差し替えたうえで採決する手続き。提出時の本文を読んだだけでは、可決された中身と一致しないことがある。
自分が暗号資産に触れている回数と、その一回ごとに何を残しているか。ルールが固まる前に確かめておきたいのは、そちらではないだろうか?