Google DeepMind が9月3日、気象予報モデル WeatherNext 3 を公開した。前の世代が25km格子・6時間刻みで出していた予報を、1時間ごとに出し直す。同社はこれを「およそ5倍細かい」と説明している。暮らしの側から読むと、これは傘を持つかどうかより先に、屋根の上でどれだけ発電するかを読む話になる。ただし「5km」がどこにかかっているかは、見出しの印象より限定的だ。
「5km」が指しているもの
まず語の範囲を絞りたい。Google の説明では、5kmになるのは気温や水分といった主要な地表変数で、それ以外の地表変数は10km、風速のような大気変数は25kmだ。開発者向けページはこれを「5km の観測所較正済み地表変数、10km の地表格子、25km の大気層」と書いている。全部が5kmになったわけではない。
比較の相手は前世代の WeatherNext 2 で、こちらは25km格子・6時間刻みだった。「5倍細かい」はその差を指す。
精度として出ている数字も、対象は降水だ。中期の全球予報で、早い予測時間帯における連続ランク確率スコア(CRPS)の改善が、IMERG に対して最大60%、MRMS に対して30%、雨量計の実測に対して10%。「1日以上先を計画するとき、降水予報が最大50%正確になる」というのが同社の言い方で、あらゆる要素が5割良くなるという話ではない。上限値であることも、そのまま読んでおきたい。
傘より先に変わるのは、屋根の上の読みだ
このモデルが名指しで挙げている用途に、エネルギーがある。予報するのは高度100mの風速——Google はこれを「おおよそ風車のハブ高」と書く——で、風力の発電量を精密に見積もるためのものだ。あわせて雲量と日射量を高解像度で出し、太陽光発電所が「地上にどれだけ光が届くか」を見積もれるようにする、と説明している。
想定されているのは発電所だ。個人の屋根に同じ数字が降りてくるとは書かれていない。それでも構造は同じで、太陽光と蓄電池を持つ家の運転計画は「明日の何時にどれだけ発電するか」の読みで決まる。朝に一度出た予報を一日使うのと、1時間ごとに出し直された予報を使うのとでは、充電を止める時刻も、貯めるか流すかの判断も変わる。
天気予報が「今日は雨か」に答える道具だった間、更新頻度はそれほど効かなかった。判断が一日一回だったからだ。判断が一時間ごとになると、更新頻度が効き始める。
確率で来るものと、手元までの距離
出てくるのは一つの数字ではない。開発者向けページによれば、WeatherNext 3 は15日先までの全球確率予報を64本のアンサンブルで、毎時初期化して出す。64本というのは「こうなるかもしれない明日」を64通り走らせているということで、受け取る側に届くのは分布だ。分布を判断に落とすには、どこに線を引くかを自分で決めないといけない。8割の確率で晴れなら晴れとして動くのか、6割で動くのか。予報が細かくなっても、その線は誰も引いてくれない。
もう一つ、距離がある。9月3日から動き出したのは Google 検索・Gemini アプリ・Google マップ・Maps Platform Weather API・Earth Engine の予報表示だ。このうち個人がそのまま開けるのは前の三つで、そこに出るのは天気であって、高度100mの風速でも日射量でもない。エネルギーの計画に効くほうのデータは BigQuery と Earth Engine で照会するか、Cloud Storage から一括で落とす——つまり Google Cloud の開発者向けの面にある。研究用のモデルと学習済みの重みは GitHub で公開されている。
さらに、データが手に入っても受け取る側が要る。蓄電池やパワーコンディショナが「明日の何時に充電を止める」という予定を外から受け付けなければ、読みは読みのまま終わる。改善が測られているのは降水であって、日射量が同じだけ良くなったとは書かれていない、という点も残ったままだ。
一日のどこを、予報に預けるか
予報が細かくなるほど、生活の中で「予報に合わせて動かせる部分」と「動かせない部分」の境目がはっきりしてくる。洗濯や外出は元々ずらせる。給湯や充電も、機械が予定を受け付けるならずらせる。仕事の時間や送り迎えはずらせない。
ずらせる部分が多いほど、予報の細かさは効く。裏を返せば、いまの暮らしでずらせるものがほとんどないなら、1時間ごとの予報は「傘を持つか」の精度が少し上がるだけで終わる。同じ道具が、置かれた場所によってまったく違う量の意味を持つ。
天気を予報として受け取るのか、自分の一日を組み替える材料として受け取るのか。あなたは明日の、どの判断を予報に預けるだろうか?