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国連総会がメルカトル図法を採決にかける——Equal Earth への切り替えを決めるのは、拘束力ではなくそれぞれの既定値だ

トーゴがアフリカ連合の後押しで出した決議案は、メルカトル図法から Equal Earth などの正積図法への移行を求める。ただし拘束力はない。可決されても地図は自動では差し替わらず、変わるとしたらそれぞれの既定値が書き換わったときだけだ。

国連総会がメルカトル図法を採決にかける——Equal Earth への切り替えを決めるのは、拘束力ではなくそれぞれの既定値だのイメージ

この記事でわかること

  • 決議案はメルカトル図法の禁止ではなく、大陸の実際の大きさが問題になる場面での正積図法採用を求めるもので、拘束力はない
  • メルカトルは角度、Equal Earth は面積を保つ。正誤ではなく用途の選択だが、多くの場面ではそもそも図法が選ばれていない
  • Equal Earth は無料で使え EPSG:8857 も割り当て済み。ただし一枚絵の差し替えは数分、ズームできるウェブ地図は土台の作り直しになる

国連総会が、世界地図の図法をめぐる決議案を採決にかける。トーゴがアフリカ連合の後押しで提出したもので、メルカトル図法から Equal Earth をはじめとする正積図法への移行を、政府・学校・国際機関・テック企業に求める内容だ。採決は現地時間の9月4日、この記事の時点で結果はまだ出ていない。そして決議に拘束力はない。可決されても、教室の地図帳もスライドの背景も自動では差し替わらない。変わるとすれば、それぞれが自分の既定値を書き換えたときだけだ。

拘束力のない決議が、名指ししている相手

まず範囲を絞りたい。決議案はメルカトル図法の使用を禁じるものではない。求めているのは、大陸の実際の大きさが問題になる場面で Equal Earth や他の正積図法を採用することだ。トーゴの外相も禁止を求めてはいないと明言している。

背景には4月のアフリカ連合総会の決定がある。第39回通常会期で Equal Earth の採用を決め、加盟国に自国のカリキュラムへの導入を促した。旗を振っているのは Correct the Map というキャンペーンで、Africa No Filter と Speak Up Africa が運営している。個人には署名を、組織には「アフリカを含む世界地図の電子的表現と印刷物すべてで Equal Earth を使う」という自発的な誓約への参加を呼びかける。

実際に効いているのは、この最後の「自発的」の部分だけだ。

メルカトルが間違っているのではなく、既定値のままなのが問題だ

メルカトル図法は角度を保つ図法だ。緯線と経線が直交し、地図上に引いた直線が一定の方位を指す。航海のために作られ、進路を扱う場面では今も合理的でいる。代償として面積が歪む。赤道から離れるほど引き伸ばされ、その結果グリーンランドがアフリカと同じくらいの大きさに見える。実際のアフリカはグリーンランドの約14倍ある。

Equal Earth は逆に面積を保つ。Bojan Šavrič、Tom Patterson、Bernhard Jenny の3人が発表した正積の擬円筒図法で、面積を正しく保ちながら大陸の形が過度に潰れないよう設計されている。ただし角度は保たない。どちらかが正しいのではなく、何を保存したいかで選ぶものだ。

問題は、多くの場面で「選んでいない」ことにある。ズームできるウェブ地図のタイル構造にはメルカトルの派生形が組み込まれているし、資料に貼る世界地図はテンプレートに最初から入っていたものを使うことが多い。選んだ覚えのない図法が、選択として機能している。

今日、手元で切り替えられるものと、切り替えられないもの

Equal Earth は誰でも使える。公式サイトから JavaScript の実装が配布され、地図投影のライブラリである PROJ にも実装がある。座標系としては EPSG:8857(WGS 84 / Equal Earth Greenwich)が割り当てられていて、PROJ を使う地図ソフトなら図法として指定できる。

とはいえ切り替えのコストは場面によってまったく違う。スライドや印刷物の背景に貼る一枚絵なら、今日差し替えられる。記事の図版も同じだ。一方でズームできるウェブ地図は簡単ではない。タイルの計算そのものがメルカトル前提で組まれているので、図法を変えるのは絵を差し替える作業ではなく、地図の土台を組み直す作業になる。

すでに切り替わっているものもある。Google マップのデスクトップ版は2018年から、十分に引くと平面ではなく球として描かれる。グリーンランドがアフリカ大の姿で出てくることはない。ただし当時、モバイル版は平面のままだった。同じサービスでも、画面によって見えている世界の形が違っていた。

向かない場面もはっきりしている。方位や進路を扱う地図に正積図法を持ち込めば、今度は別の歪みを引き受けることになる。「全部これに替える」は答えにならない。

自分の頭の中にある世界地図は、いつ入ったのか

決議が可決されても、翌日に何かが自動で変わるわけではない。この構図は、既定値が誰かの手で決められている他のものとよく似ている。誰も選んでいないから、誰も選び直さない。

自分の中にある世界の形も、たいてい後から検証されていない。学校で配られた地図帳、資料の背景、画面の後ろに映る図。どれも誰かが図法を選んだ結果だが、選んだ人の顔は見えないし、選び直せることも普通は教わらない。

選び直す手段は、いまは手元にある。正積図法の一枚絵は無料で手に入るし、指定できる座標系もある。かかる手間は、数分で済む場面から土台の作り直しになる場面まで幅がある。

次に世界地図を人に見せるとき、その形は誰がいつ決めたものだろう。そのままでいい場面と、変えたほうがいい場面を、あなたはどこで分けるだろうか?

参照

あなたの暮らしで、最初に試せることは何でしょうか。