World Labs が 9 月 1 日、Atlas という新しいモデルを公開した。テキスト・画像・動画・3D を最初から一つのモデルとして学習させ、カメラの動きを指定しながら映像を生成し、それをそのまま 3D に起こせるという。同社はこれを「世界初のマルチモーダル世界モデル」と呼んでいる。
ここで動いたのは画質ではない。撮ったものが、あとから歩き回れる場所になるかどうかだ。写真や動画が記録であることは変わらないが、その記録に自分の足で入り直せるなら、何をどう撮っておくかの基準は変わる。ただし今日、あなたの手元でそれが動くわけではない。まず、公表されている範囲を正確にしておきたい。
何ができると書かれているのか
公式の発表によれば、Atlas はテキスト・画像・動画・3D をゼロから学習した単一のモデルで、入力として受け取るのはテキスト、画像、カメラの姿勢、深度マップ。出力は 2D の画像と動画に加えて、点群や 3D ガウシアンスプラットという 3D の形式そのものだ。生成できる長さと解像度には上限が示されていて、1440p で最大 1 分とある。画像生成は主眼ではない、とも書かれている。
比較の数字も出ている。カメラを指定した生成では他社モデルに対して 81% と 93% の選好率、3D 復元では平均誤差 25.3 という値が並ぶ。ただしこれは開発元が自ら設計し、自ら実行した比較の結果である。論文や技術レポート、モデルカードは同時に公開されていない。数字を否定する材料はないが、第三者が同じ条件で回した結果でもない。
変わるのは「作る」より「戻れる」ほうだ
会社が挙げている用途は映像制作やゲーム、そしてロボットの学習環境だ。共同創業者の Fei-Fei Li 氏も、一枚の入力画像から広い場面を復元できること、用途は VFX からロボティクスまで広がることを挙げている。産業側の話としては、それで筋が通る。
個人の側から見ると、意味は少しずれる。空間として起こせるということは、部屋も、実家も、旅先の路地も、あとから角度を変えて見直せる対象になるということだ。いま私たちが残している記録は、決められた画角の外を持っていない。撮った人が向けなかった方向は、そこに写っていないのではなく、最初から存在しない。空間モデルが変えるのはそこだ。
ただしこれは、まだ可能性の話でしかない。
入口は、まだ開いていない
Atlas は早期アクセス段階で、相手は「一部のパートナー」とだけ書かれている。パートナー名も、価格も、一般提供の時期も示されていない。触りたければ申請フォームから申し込む、という状態だ。
いま誰でも使える形になっているのは、同社のもう一つのモデル Marble と、それを叩く World API のほうだ。こちらは 1 月の発表時点で公開されており、プラットフォーム上で API キーを発行し、クレジットを購入して使う。ただし Marble は Atlas ではない。Atlas の記事を読んで期待した性能が、そのまま今日の API で出るとは考えないほうがいい。
コストの見え方もそこで割れる。Marble 側は従量課金で、試すぶんには金額を自分で決められる。Atlas 側は、費用の桁がまだ公表されていない。個人が使えるものになるのか、当面は制作会社と研究室の道具に留まるのかは、価格が出るまで判断材料がない。
いま撮るものが、あとで入れるかどうかを決める
それでも、今日できることはある。入力として効くのがカメラの姿勢と深度、そして複数視点である以上、後から空間に起こしやすい素材とそうでない素材は分かれる。一枚から復元できるとは書かれているが、一枚が最良の入力だとは書かれていない。同じ場所を角度を変えて何枚か撮る、ゆっくり歩きながら一続きで動画を回す。それだけで、数年後の入力としての価値は変わる。
逆に言えば、選ぶ必要もある。すべてを空間として残す必要はないし、残せば残すほど後で扱いに困る量になる。家の中を丸ごと 3D にしておくことは、便利さであると同時に、他人に渡ったときの情報量でもある。
決めるのは、モデルが降りてくる前でいい。あなたがもう一度入りたい場所は、どこだろうか?
