ロンドン証券取引所(LSE)と、暗号資産取引所 Kraken の親会社である Payward が9月1日、LSE に上場する最大手100社をブロックチェーン上のトークンとして扱う計画を発表した。数週間のうちに、Kraken などの対応プラットフォームで最初の銘柄が扱えるようになるという。
これは投資先が増えたという話ではない。自分の資産をどこに置き、いつ触れられるかを決める主体が、少しだけ自分の側に寄る話だ。これまでその時間を決めていたのは、取引所の営業時間と、口座を預かっている会社だった。
ただし、寄ってきた分だけ、自分で持つ責任と、自分で確かめる項目が増える。
「24時間」は、経路ごとに別のものを指している
まず語の範囲を絞りたい。今回の話に出てくる「いつでも」は、少なくとも三つの違う時間を指している。
トークンを自分のウォレットに出してチェーン上で使う場合、公式の説明は「24時間・年中無休」だ。一方、Kraken 上での売買は「1日24時間、週5日」と書かれている。そして LSE 自身が用意する延長取引の場は、月曜から金曜の17時から翌7時50分まで、うち30分は日次処理のために止まる。しかもそこでの取り扱いは規制当局の承認が前提で、まだ決まった話ではない。
「夜中も動く」は正しい。ただし、どの経路で持つかによって、止まる時間も、止まったときに誰に連絡できるのかも変わる。
保管の主語が、自分の側に寄る
このトークンは、原資産を規制下のカストディで1対1に裏付けたものとして説明されている。発行しているのは Jersey の Backed Assets (JE) Limited で、販売は Kraken 側の会社が担う。
暮らしの側から見て変わるのは、その仕組みそのものではない。このトークンは自由に移転でき、自分で鍵を持つウォレットに出金できると公式が明記していることだ。証券口座の中にあるものは、動かすときに必ず誰かの営業時間を通る。鍵を持って自分のウォレットにあるものは、通らない。
通らないということは、間に立ってくれる人もいないということだ。鍵を失えば、問い合わせ先はない。自己保管は選択肢が増えることであって、楽になることではない。
手元に来るのは、株そのものではない
ここが一番、確かめる価値がある。公式の説明にあるのは「原資産を1対1で裏付ける」「現金相当額または原資産で償還できる」であって、法的に株主になるとは書かれていない。
配当や議決権がどう扱われるのかは、少なくとも公開されている商品説明のページには明示がない。「最大手100社が手元に来る」という言い方は、値動きへの連動については当たっていて、株主としての地位については当たっていない。
もう一つ。この商品は米国・英国・カナダ・オーストラリアの居住者と、制裁対象地域には提供されないと公式が名指しで書いている。英国の株を英国の人が触れられない、という状態から始まる。日本の扱いは、公開されている商品説明のページに名指しでは書かれていない。使えるかどうかは、自分の居住地の側から確かめる項目として残る。
いつでも触れる、は、いつでも判断を迫られる
この仕組みではすでに累計400億ドル超が取引され、20万人以上が保有しているという。数字は増えている。
ただ、増えているのは触れられる時間のほうだ。これまでは、夜中に値段が気になっても口座は閉じていた。閉じているという事実が、判断を翌朝まで遅らせてくれていた。その壁がなくなると、遅らせる役目は自分が引き受けることになる。
鍵を自分で持つというのは、保管の責任だけの話ではない。触れられるのに触れない時間まで、自分の設計に入ってくるということだ。
自分の資産に触れられる時間を、これまでは誰が決めていたのだろう。そして窓が閉まらなくなったとき、あなたはその時間を自分で決めたいだろうか、それとも決めてくれる仕組みのほうを選ぶだろうか?