SpaceX が8月22日、カリフォルニアのヴァンデンバーグ宇宙軍基地からファルコン9を打ち上げ、スターリンク衛星を軌道に運んだ。同社はこれを「今年100回目」と告知している。その前日には、次のスターシップが6基のラプターエンジンで60秒間のフル時間静的燃焼を終えていた。
片方はもう日常業務で、片方はまだ飛んでいない。二つを並べると、宇宙開発の進捗というより、回線がどう供給されるようになったかの話に見えてくる。
そしてそれは、山の小屋や離島や、停電した夜に、自分の手元にどの回線があるかという問題として降りてくる。
まず、100という数の中身を絞る
SpaceX の投稿は27基のスターリンク衛星を運んだと書いている。報じた Space.com によれば、これは今年99機目のファルコン9であり、ファルコン系ロケットとしては100回目にあたる。残る1回は、4月に通信衛星 Viasat-3 F3 を打ち上げたファルコンヘビーだ。つまり「100回目」はファルコン9単体の数ではない。
衛星の数にも幅がある。SpaceX は27基と書き、打ち上げを追った Spaceflight Now は29基と伝えている。一方でブースターはどちらも B1100 の9回目の飛行で、太平洋上のドローン船に着地したという記録は一致している。
細かい話に見えるが、ここを曖昧にしたまま「100回」だけを持ち帰ると、次に数字を見たときに比べるものがなくなる。
静的燃焼は、飛行ではない
前日のスターシップは、地面に固定したまま6基のエンジンを60秒間燃やした。全エンジンをフル時間動かせたことは一段階の通過であって、飛ぶ日が決まったという意味ではない。SpaceX の投稿にも、飛行日は書かれていない。
この区別は、これから同じ話題の見出しを見るときにそのまま使える。地上で試験が済んだ、というニュースと、飛んだ、というニュースは、暮らしの側から見れば重さが違う。前者はまだ何も運んでいない。
回数が話題にならなくなるとき
ファルコン9の側は逆だ。Space.com の集計では、今年の99回のうち76回がスターリンク専用の打ち上げで、スターリンクは運用中の衛星だけで1万1千基を超えている。自社のインフラを、自社のロケットで、繰り返し運ぶ。
打ち上げが「出来事」でなくなるというのは、そういうことだ。一回ごとに驚かれているうちは、それはまだ特別な手段でしかない。回数が話題にならなくなったとき、それは前提になる。
前提になると、暮らしの側の設計が変わる。山間部に小屋を建てるとき、離島に移るとき、台風で地上の回線が落ちた夜に、「そこに回線があるか」は場所を諦める理由ではなく、選べるものの側に寄る。少し前まで、これは住む場所を絞り込む条件のほうだった。
前提にする前に、確かめること
空から来る回線には、地上の回線と違う費用と制約がある。
機材と月額の負担が要る。アンテナから空がどれだけ見えているかで実効は変わるので、屋根や樹木や山の稜線の位置は、自分の敷地で確かめるしかない。そして災害時の備えとして数えるなら、地上が停電している間にその機材へ電気を送る手段まで用意していないと、回線だけが宙に浮く。
つまり、備えとして成立するかどうかは打ち上げ回数では決まらない。決めるのは、設置場所から見える空と、電源と、それを月々払い続けるかどうかだ。100回という数字が保証するのは、その選択肢が存在するところまでである。
そのうえで、まだ分かっていないことも残る。衛星が増え続けたときに、混み合う時間帯の実効速度がどうなるのかは、数が増えてみないと分からない。前提として頼るなら、頼りきらない部分をどこに残しておくかも一緒に決めることになる。
いま地上の回線が落ちたとして、自分の暮らしの中で止まるものはどれだろうか?
参照
- SpaceX 公式投稿 — カリフォルニアからの打ち上げで27基のスターリンク衛星を軌道へ、今年100回目と告知
- SpaceX 公式投稿 — 14回目の飛行試験に向けた機体が6基のラプターで60秒のフル時間静的燃焼を完了 (飛行日の記載なし)
- Space.com の報道 (Yahoo 配信) — 今年99機目のファルコン9でファルコン系100回目、残る1回は4月のファルコンヘビー。今年99回中76回がスターリンク専用、運用衛星は1万1千基超、ブースター B1100 は9回目の飛行
- Spaceflight Now — 打ち上げ詳報。SLC-4E から離昇、B1100 は9回目でドローン船に着地。衛星数は29基と記載