OpenRouter に並ぶ DeepSeek V4 Flash 0731 は、28 の提供元から同じ名前で買える。入力 100 万トークンあたりの値段は、最も安い OpenInference が 0.035 ドル、最も高い Novita・AtlasCloud・Cloudflare が 0.44 ドル。同じモデルなのに 12.6 倍の開きがある (8 月 25 日時点)。出力側はもっと広く、StreamLake の 0.064 ドルから 1.32 ドルまで 20 倍を超える。どのモデルを使うかを選んだつもりで、その先の「どこで動かすか」はまだ選んでいなかった、という話だ。
12.6 倍は例外の側にある
まず範囲を絞りたい。これは OpenRouter という中継サービスに登録された提供元どうしの値段であって、モデルそのものの原価でも、業界全体の相場でもない。数値は日ごとに動く。
同じカタログを 8 月 25 日に数えると、3 社以上が同じモデルを出しているのは 85 モデルだった。その 85 の中で、最安と最高の値差の中央値は 1.75 倍。大半は 2 倍前後に収まっている。
一方で上位は離れている。DeepSeek V3.2 は 14 社が出していて、GMICloud の 0.209 ドルから SambaNova の 3.00 ドルまで 14.4 倍。V4 Flash 0731 の 12.6 倍がそれに続く。
10 倍級の値差は、どのモデルにもあるわけではない。ただし、いま個人が手を出しやすい安くて速いモデルほど、その側に来ている。
安いほうは、少しだけ違うものを出している
値段の差が何を買っているのかは、同じ表の別の列に書いてある。
V4 Flash 0731 の最安 2 社、OpenInference と Relace はどちらも fp4 で動かしている。0.079 ドルの Morph は bf16、真ん中に並ぶ多くは fp8。数値の精度をどこまで落として詰め込むかが違う。モデルの重みは同じでも、計算の粒度は同じではない。
扱える文脈の長さも揃っていない。同じ 0.14 ドルでも、AkashML は 131,072 トークンまで、Baidu や SiliconFlow は 1,048,576 トークンまで。8 倍の差が同じ値段の中にある。長い資料を丸ごと渡す使い方をするなら、安い枠のいくつかは最初から選択肢に入らない。
止まりにくさも違う。V3.2 で見ると、直近 1 日の稼働率は Baidu が 100%、Venice が 72.32% だ。
安物買いの話ではない。値段の列だけを見て並べ替えると、選んでいるつもりのない列まで一緒に動く、という話だ。
既定のまま呼ぶと、行き先は毎回決まらない
ここが実際に効く。OpenRouter の既定は、いちばん安いところに必ず送ることではない。公開ドキュメントによれば、直近 30 秒に目立った障害のない提供元をまず残し、その中から値段の逆二乗で重み付けして 1 つを選ぶ。残りは予備に回る。
だから既定のまま同じモデルを呼び続けても、行き先は毎回同じにならない。安いほうへ寄りはするが、最安に固定されるわけでもない。表の 12.6 倍が、そのまま請求額の 12.6 倍になるわけではない。
固定したいなら、提供元を順番で指定するか、値段順で並べるよう指示すれば、この重み付けは止まる。ただし止めた分は自分で引き受けることになる。1 社に決め打てば、その 1 社が落ちた日に何が起きるかも自分の設計に入る。
もう一つ、既定で開いている扉がある。データを保存しうる提供元を使うかどうかの設定は、既定が「許可」だ。断るには明示的に指定する。値段の話をしているつもりで、預け先の話も一緒に決まっている。
自分は、どこで動かすのか
選択肢はそれほど多くない。最安に寄せるか、提供元を固定するか、データの保存を断るか、既定のまま任せるか。組み合わせても、それぞれ何かを引き換えにする。
最安に寄せれば、精度の粒度と文脈の長さが日によって変わりうる。固定すれば、その 1 社の調子が自分の調子になる。保存を断れば、選べる提供元は減る。任せれば、安さは平均的に効くかわりに、何が起きているかは手元に残らない。
そして、公開表から読めないことがある。fp4 と fp8 の差が自分の用途で実際に出るのかは、価格表にも稼働率にも書いていない。同じ入力を 2 社に投げて、返ってきたものを並べて見るまでは分からない。上の値段なら、その比較そのものにはほとんど元手が要らない。
モデルの名前だけを見て決めているなら、いちばん値の張る変数をまだ見ていないことになる。12 倍の幅があるものを既定に任せているとき、あなたが払っている額は何を買っているのだろうか?
