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ローマン宇宙望遠鏡が上がった——43億ドルで撮る20ペタバイトに、独占して見られる期間はない

総経費43億ドルの望遠鏡が離昇した。だが個人にとって新しいのは、5年で20ペタバイトになるそのデータに「排他的な利用期間がない」ことのほうだ。公開の形は配布ではなく入室になり、扉の先には計量器がある。

ローマン宇宙望遠鏡が上がった——43億ドルで撮る20ペタバイトに、独占して見られる期間はないのイメージ

この記事でわかること

  • ローマン宇宙望遠鏡が日本時間8月30日20時26分に離昇。主鏡はハッブルと同じ2.4メートルで、増えたのは解像度ではなく視野(100倍以上・3億画素)
  • NASA は全観測データに「排他的な利用期間を設けない」と明記。処理が済み次第、誰の手にも同時に置かれる
  • ただし5年で20ペタバイト。公開の形はダウンロードではなくクラウド環境への入室で、個人アカウントの割り当ては30クレジット・1日1回復の探索用

NASA のナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡が、日本時間の8月30日20時26分(米東部夏時間の同日7時26分)、ファルコンヘビーでケネディ宇宙センターの39A発射台から離昇した。開発から打ち上げ、運用までを合わせた総経費は約43億ドル。ただ、個人の側から見て新しいのは望遠鏡そのものではなく、そこから降りてくるデータの扱い方のほうだ。NASA はプレスキットに「排他的な利用期間は設けない」と明記している。処理が済んだものから、誰の手にも同時に置かれる。

「公開されている」と「自分に使える」が、この望遠鏡でははっきり別の話になる。

43億ドルが買ったのは、解像度ではなく広さだ

主鏡は直径2.4メートルで、ハッブル宇宙望遠鏡と同じ大きさだ。重さは186キログラムで、ハッブルの主鏡の4分の1に満たない。角分解能もハッブルと同等だとされている。つまり「よりよく見える」望遠鏡ではない。

違うのは視野だ。主装置である広視野装置には、1枚あたり約1,680万画素の検出器が18枚並び、合計で3億画素になる。視野はハッブルの100倍以上あり、1枚の画像が満月の見かけの大きさより広い範囲を収める。データが集まる速さはハッブルの最大1,000倍で、5年の主要ミッションのあいだに処理後のデータは20ペタバイトに達する見込みだという。

主な標的は二つある。ひとつは暗黒物質だ。星や惑星や銀河のように目に見えるものは、宇宙の物質のおよそ5分の1でしかなく、残りは重力の効果を通してしか観測できない。もうひとつは暗黒エネルギーで、宇宙の全体の内容のうち約68%を占めるとされる。

合わせれば宇宙のほとんどになる。それでも名前がついているだけで、正体は分かっていない。

「排他的な利用期間は設けない」という一行

プレスキットは、全ての観測計画のデータを処理が済み次第公開すると書いている。理由も併記されている。ひとつひとつの観測が多数の研究テーマにまたがるため、複数の研究者やチームが同時に使えるほうが理にかなう、というものだ。

地上へ降りてくる量は1日あたり約1.4テラバイト。NASA の天体物理学ミッションとしては過去最大の量だとしている。受け取る地上局はニューメキシコ、オーストラリア、そして日本の3か所に分かれている。

ここで話が裏返る。20ペタバイトは、個人が手元に落として持てる量ではない。だから公開の形も「ダウンロードできる」ではなくなった。プレスキットは、量の大きさゆえに研究の大半はクラウド上の計算環境「Roman Nexus」を通じて行われ、各自がデータ一式を落として保管するのではなく、整えられたデータ製品にオンラインでアクセスして解析する形になると説明している。

公開の中身が、配布から入室へ変わったということだ。

扉は開いているが、部屋にはメーターがある

その入り口は、宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)が運用する JupyterHub 環境として動いている。公式ドキュメントによれば、MyST アカウントを持っていれば誰でも個人アカウントでセッションを起動できる。研究職であることは条件になっていない。

ただし個人アカウントは「探索的な作業」——プラットフォームの習得、チュートリアルや作業手順の実行、小規模な解析の試作——を想定したものと明記されている。割り当ては初期値30クレジットで、1日1クレジットずつ、上限30まで回復する。共同作業や、より大きな計算資源を使うチームアカウントは申請制で、STScI が Roman のコミュニティ活動との整合を確認する審査を通す。標準的な所要はおよそ2週間とされている。

この30クレジットで実際にどれだけの解析が回るのかは、走らせる処理の重さ次第で、ここで断定できることではない。分かっているのは、扉に鍵がかかっていないことと、その先に計量器があることの両方だ。

そして急ぐ理由はまだない。観測データはまだ1バイトも流れていない。展開・較正・試験は打ち上げ後の3か月にわたって続き、90日の初期運用期間を経て本来の軌道に入る。新しい画像の公開は2027年初頭と見込まれている。

執筆時点で公式に記録されているのは、離昇と上段の最終燃焼完了までだ。分離とその後の交信については、まだ確認が出ていない。

寿命を決めるのは燃料だとされ、L2 にある観測機を修理しに行く手段は現時点で存在しない。設計上は燃料の補給ができるようになっている、という段階にとどまる。

「公開されている」と「自分に使える」のあいだ

公開データをめぐる話は、たいてい二段階で語られる。公開されているか、いないか。だが今回のように量が大きくなると、あいだにもう一段が挟まる。公開されている/アクセスできる/自分に使える、の三段だ。

ローマンは一段目を最初から開けた。二段目も、アカウントを作れば個人に開いている。三段目は望遠鏡の側の問題ではなくなり、こちらの時間と道具と、そもそも何を知りたいのかという問いに移る。これは宇宙に限った構造ではない。気象も、地図も、統計も、公開の水準が上がるほど「開いているのに一度も開けていない」ものが増えていく。

5年で20ペタバイト、宇宙のほとんどを占める二つの暗がりについて。あなたなら、この望遠鏡に何を訊いてみたいだろうか?

参照

あなたの暮らしで、最初に試せることは何でしょうか。