MoneyGram が 9 月 10 日、コロンビアで「MoneyGram Card」を出した。アプリの中に持っているドル建ての残高を、Visa が使える店でそのまま支払いに回せる。送金を受け取る側から見ると、窓口に並んで現地通貨を受け取り、それを財布に入れて帰る、という工程がひとつ消えるかもしれない話だ。
ただし、公式発表に書かれていないことも同じくらいある。使うかどうかを決めるのは、書かれている側ではなく書かれていない側だろう。
受け取った残高が、店の会計まで続く
現在はアプリ内の仮想カードとして提供され、Apple Wallet と Google Wallet に登録して店頭のタッチ決済やオンラインの買い物に使える。プラスチックの物理カードは 2026 年後半の予定だ。
裏側は 3 社で分かれている。ブロックチェーンの送受信は Stellar、残高を預かるウォレット機能は Crossmint、そしてその残高を Visa の加盟店網につなぐのが Rain という決済インフラ企業だ。現金が必要になったときは、MoneyGram の残高を送って近くの店舗で現地通貨として引き出せる。MoneyGram は 85 年の歴史を持ち、200 以上の国と地域、およそ 50 万か所の取扱店、6,000 万人超の利用者を公表している。
会長兼 CEO の Anthony Soohoo は発表文で「お金の管理について、より多くの自由と裁量を、ひとつの場所で顧客に渡している」と述べている。国をまたいで働く人にとって、受け取りと支払いが同じ残高の上で続くかどうかは、月々の手取りの実感を変える。
「ドル建ての残高」の中身は、公式には書かれていない
ここは語を正確にしたい。MoneyGram の発表文が言っているのは「stable-dollar balance」= ドルに連動した残高、までで、どのステーブルコインを使うのかは書かれていない。
開始時点では Circle の USDC に対応し、6 月に発表した自社の MGUSD を近く追加する予定である、と伝えているのは The Block や CoinDesk といった報道の側だ。公式の発表文と報道が伝える内容は、ここで一段ずれている。
この差は細かい話に見えて、持つ側にとっては置き場所の話になる。残高が誰の発行したトークンで、何によって裏付けられ、どの規制の下にあるのか。カードの見た目は Visa でも、その下にあるのは銀行預金ではない。「ドルを持っている」と言うとき、何を持っていることになるのかは、発行体の名前まで降りないと決まらない。
同じ配管が、送金大手の両方に入った
1 か月前の 8 月 4 日、Western Union も Stablecard を発表している。こちらは Anchorage Digital Bank が Solana 上で発行する USDPT を、ウォレットと Visa のカードで持ち歩く仕組みで、37 市場で開始し年内に 60 市場超を目指すという。
両社に共通しているのが Rain だ。送金業界の 1 位と 2 位が、同じ決済インフラ企業を通してステーブルコインを Visa の網に載せている。
つまり起きているのは「カードが 1 枚増えた」ことではない。長く「お金を運ぶ会社」だった送金業者が、ドル残高を預かって保管する場所になりはじめている。受け取ったその日に現金化しなくてよくなる代わりに、換えるまでの時間、誰かの残高の上に自分のお金が乗る。
決まっていないことを、先に数える
発表文には手数料が書かれていない。カード発行料、決済時の為替の扱い、店舗での引き出し手数料、どれも現時点では公表されていない。誰が申し込めるのか、本人確認の条件も明記されていない。
使える場所も今はコロンビアだけで、物理カードはまだなく、他の市場への拡大は「今後数か月のうちに」としか書かれていない。日本にいる読者が今日申し込めるものではない。
それでも、この形は他人事にはならない。海外で働く家族に送る、フリーランスとして国外から報酬を受け取る、長期で国外に滞在する。どれも「受け取ったお金を、いつ自分の国の通貨に戻すか」を自分で決める場面だ。ドルのまま持てば為替の上下をそのまま受け、現地通貨に換えれば手数料と交換レートを一度で確定させる。どちらが有利かは誰にも約束できないし、約束する人がいたらそこを疑ったほうがいい。
決められるのは有利さではなく、判断の順番のほうだ。手数料が公表されてから使うのか、少額で試してから決めるのか。発行体の名前と裏付けを確かめてから残高を置くのか、カードが届いてから考えるのか。
受け取ったお金を、あなたはどこまでドルのまま持っておきたいだろうか。それとも、使う前に自分の通貨に戻しておきたいだろうか?