Insilico Medicine が 9 月 7 日、開発中の薬 rentosertib について、投与を受けた患者の「生物学的年齢」が下がったとする解析を発表した。論文は Nature Biotechnology に載っている。題は「第 2a 相臨床試験へのプロテオーム老化時計の統合は、老化保護作用の同時評価を支持する」。
ただし、この薬が狙っていたのは老化ではない。特発性肺線維症(IPF)という、肺が硬くなっていく病気の薬として作られている。老化のほうは、測ったら動いていた側だ。
見出しは「AI が設計した薬が若返らせた」と読める形になる。読む前に、何がどう測られたのかを分けておきたい。
測ったのは年齢ではなく、血液のタンパク質だ
老化時計というのは、血液中のタンパク質の並び方から「この人は生物学的に何歳くらいか」を推定するモデルのことだ。実年齢とは別に出る。
今回使われたのは 6 つ。ProtAge、OrganAge(暦年齢版と死亡リスク版)、PAC、ipfP3GPT、PAOPAC。それぞれ別のグループが独立に作ったものだ。Insilico の発表で引かれている 2013 年ノーベル化学賞の Michael Levitt 氏は、こう言っている。「6 つの独立したグループによる 6 つのプロテオーム時計を、同じ 42 人に当てて、すべてが治療群でより若い生物学的年齢を報告した。私を納得させるのは効果の大きさではなく、その一致だ。これらのモデルは特徴量も訓練データも共有していないのだから」。
解析の対象は、試験参加者 42 人分の 12 週間ぶんの血清プロテオームデータ。効果が最も大きかったのは 30mg を 1 日 2 回投与した群の 4 週目で、生物学的年齢にしておよそ 3〜4 年、あるモデルでは最大 6 年ぶんの低下だった。
推定値が下がった。年齢が戻ったわけではない。
狙いは肺、動いたのは時計
薬の出自のほうも見ておきたい。標的になった TNIK というタンパク質は、Insilico が AI で探索して見つけたもので、それに効く分子も同社の生成 AI(Chemistry42)が設計している。試験は主に中国で行われた第 2a 相で、30mg を 1 日 2 回、60mg を 1 日 1 回、プラセボの 3 群を置いた無作為化比較試験だ。
老化時計の解析は後づけではない。プロテオーム解析は探索的なバイオマーカー解析として、あらかじめ試験に組み込まれていた。肺の側でも、加齢とともに落ちていく努力肺活量(FVC)が用量に応じて改善し、時計の動きと向きが揃っている。
そして、いちばん大きな留保は発表そのものに書かれている。Jing-Dong Jackie Han 氏の言葉として、こうある。「この試験では、老化が遅くなったのか、肺が治療されたのかを、まだ切り分けられない。著者たち自身がそうはっきり書いている」。
肺の病気がよくなれば、血中のタンパク質も病気の側から動く。時計はその動きも拾ってしまう。切り分けはこれからの仕事だ。
「若返り」と読む前に、確かめられること
第 2a 相は、安全性と効き方の当たりをつける段階だ。人数は 42 人、期間は 12 週間。第 3 相はこれからで、そこで同じことが再現するかは、まだ誰も知らない。
安全性の側も、都合のいい話だけではない。2025 年に報告された rentosertib の第 2a 相の主要な結果では、高用量群で肺機能の改善が見られた一方、別の IPF 治療薬を併用していた患者で肝臓の有害事象が報告されている。
そして、これは処方薬の話だ。適応は肺の病気で、健康な人が飲んで老化が遅くなるかどうかは、この試験では調べられていない。手に入れて試せるものでもない。
では読む側に何が残るか。ひとつは、測り方が一つ増えたということだ。ある薬を評価するときに、目的の指標(肺活量)とは別の指標(血中タンパク質からの推定年齢)を同時に取って並べる、というやり方が査読を通った。これから出てくる薬のニュースで、同じ形の数字を見る機会は増える。
見ておきたいのは三つ。第 3 相で同じ向きに動くか。健康な人を対象にした検証が始まるか。そして、他の薬でも同じ測り方が使われ、比べられるようになるか。
目的の外側で動いてしまった指標を、あなたはどう受け取るだろうか?