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Insilico の rentosertib は肺の薬だが、6 つの老化時計が揃って若い側を示した

AI が標的を見つけ、AI が分子を設計した肺の薬で、生物学的年齢の推定値が下がった。ただし試験が見ていたのは肺のほうで、切り分けはこれからだ。

Insilico の rentosertib は肺の薬だが、6 つの老化時計が揃って若い側を示したのイメージ

この記事でわかること

  • Insilico Medicine が 9 月 7 日、rentosertib の第 2a 相参加者 42 人分の血清データを 6 つの独立した老化時計で解析し、すべてが生物学的年齢の低下を示したと発表した(Nature Biotechnology 掲載)
  • 薬の適応は特発性肺線維症で、標的 TNIK は AI 探索、分子は生成 AI が設計。老化時計の解析は探索的バイオマーカー解析としてあらかじめ組み込まれていた
  • 発表自身が、老化が遅くなったのか肺が治療されたのかを切り分けられないと明記している。第 2a 相は 42 人・12 週間で、第 3 相はこれから

Insilico Medicine が 9 月 7 日、開発中の薬 rentosertib について、投与を受けた患者の「生物学的年齢」が下がったとする解析を発表した。論文は Nature Biotechnology に載っている。題は「第 2a 相臨床試験へのプロテオーム老化時計の統合は、老化保護作用の同時評価を支持する」。

ただし、この薬が狙っていたのは老化ではない。特発性肺線維症(IPF)という、肺が硬くなっていく病気の薬として作られている。老化のほうは、測ったら動いていた側だ。

見出しは「AI が設計した薬が若返らせた」と読める形になる。読む前に、何がどう測られたのかを分けておきたい。

測ったのは年齢ではなく、血液のタンパク質だ

老化時計というのは、血液中のタンパク質の並び方から「この人は生物学的に何歳くらいか」を推定するモデルのことだ。実年齢とは別に出る。

今回使われたのは 6 つ。ProtAge、OrganAge(暦年齢版と死亡リスク版)、PAC、ipfP3GPT、PAOPAC。それぞれ別のグループが独立に作ったものだ。Insilico の発表で引かれている 2013 年ノーベル化学賞の Michael Levitt 氏は、こう言っている。「6 つの独立したグループによる 6 つのプロテオーム時計を、同じ 42 人に当てて、すべてが治療群でより若い生物学的年齢を報告した。私を納得させるのは効果の大きさではなく、その一致だ。これらのモデルは特徴量も訓練データも共有していないのだから」。

解析の対象は、試験参加者 42 人分の 12 週間ぶんの血清プロテオームデータ。効果が最も大きかったのは 30mg を 1 日 2 回投与した群の 4 週目で、生物学的年齢にしておよそ 3〜4 年、あるモデルでは最大 6 年ぶんの低下だった。

推定値が下がった。年齢が戻ったわけではない。

狙いは肺、動いたのは時計

薬の出自のほうも見ておきたい。標的になった TNIK というタンパク質は、Insilico が AI で探索して見つけたもので、それに効く分子も同社の生成 AI(Chemistry42)が設計している。試験は主に中国で行われた第 2a 相で、30mg を 1 日 2 回、60mg を 1 日 1 回、プラセボの 3 群を置いた無作為化比較試験だ。

老化時計の解析は後づけではない。プロテオーム解析は探索的なバイオマーカー解析として、あらかじめ試験に組み込まれていた。肺の側でも、加齢とともに落ちていく努力肺活量(FVC)が用量に応じて改善し、時計の動きと向きが揃っている。

そして、いちばん大きな留保は発表そのものに書かれている。Jing-Dong Jackie Han 氏の言葉として、こうある。「この試験では、老化が遅くなったのか、肺が治療されたのかを、まだ切り分けられない。著者たち自身がそうはっきり書いている」。

肺の病気がよくなれば、血中のタンパク質も病気の側から動く。時計はその動きも拾ってしまう。切り分けはこれからの仕事だ。

「若返り」と読む前に、確かめられること

第 2a 相は、安全性と効き方の当たりをつける段階だ。人数は 42 人、期間は 12 週間。第 3 相はこれからで、そこで同じことが再現するかは、まだ誰も知らない。

安全性の側も、都合のいい話だけではない。2025 年に報告された rentosertib の第 2a 相の主要な結果では、高用量群で肺機能の改善が見られた一方、別の IPF 治療薬を併用していた患者で肝臓の有害事象が報告されている。

そして、これは処方薬の話だ。適応は肺の病気で、健康な人が飲んで老化が遅くなるかどうかは、この試験では調べられていない。手に入れて試せるものでもない。

では読む側に何が残るか。ひとつは、測り方が一つ増えたということだ。ある薬を評価するときに、目的の指標(肺活量)とは別の指標(血中タンパク質からの推定年齢)を同時に取って並べる、というやり方が査読を通った。これから出てくる薬のニュースで、同じ形の数字を見る機会は増える。

見ておきたいのは三つ。第 3 相で同じ向きに動くか。健康な人を対象にした検証が始まるか。そして、他の薬でも同じ測り方が使われ、比べられるようになるか。

目的の外側で動いてしまった指標を、あなたはどう受け取るだろうか?

参照

あなたの暮らしで、最初に試せることは何でしょうか。