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州が検査した肉が州境を越えるには従業員25人以下、米大統領令はその門を広げにいく

州が検査した肉が州境を越えるための門を、9月4日の米大統領令が広げにいく。ただし自分が食べることと売ることの間に引かれた線そのものは動いていない。日本のと畜場法も、同じ場所に線を引いている。

州が検査した肉が州境を越えるには従業員25人以下、米大統領令はその門を広げにいくのイメージ

この記事でわかること

  • 9月4日の米大統領令は、州検査プログラム・CIS・Talmadge-Aiken の参加拡大と60日以内の報告を農務省に指示した
  • 州境を越えられる州検査の施設は従業員25人以下で、HACCP 計画やラベル事前審査など連邦と同じ要件が要る。州検査を持つ29州のうち協定を結んでいるのは10州
  • 自分と同居者が食べる分までは検査の外という線は、米国の連邦規則にも日本のと畜場法にも共通している

米国で9月4日、食肉をめぐる大統領令が署名された。州が検査した食肉を州境の外へ売れるようにする道を広げるよう、農務長官に指示する内容だ。ホワイトハウスの説明文書は背景として、40年余り前には去勢牛と未経産牛の買い付けの36%だった大手4社の比率が、いまは85%になったと書いている。

ただ、この大統領令が動かしたのは「肉を売っていいのは誰か」の線そのものではない。線はもっと手前、自分で食べることと売ることの間に引かれていて、その位置は動いていない。広げにいくのは、線を越える側のために用意された門の幅のほうだ。

そして線の引き方は、日本のと畜場法とよく似ている。

売らない限り、検査はほとんど出てこない

米国の連邦規則には custom exemption と呼ばれる除外がある。所有者が持ち込んだ牛・羊・豚・山羊を、その所有者の世帯が食べる分として処理する場合、連邦の検査は要らない。食べる相手は所有者本人と同居する家族、それに報酬を伴わない客や従業員までだ。代わりに製品には Not for Sale と表示し、販売用の製品とは離して保管する(9 CFR 303.1)。

日本のと畜場法も、形はほとんど同じだ。第13条第1項は「何人も、と畜場以外の場所において、食用に供する目的で獣畜をとさつしてはならない」と定めた上で、食肉を扱う営業者以外の人が、あらかじめ都道府県知事に届け出て、主として自分と同居者が食べる目的でとさつする場合を除いている。生後1年以上の牛と馬はこの除外から外れる。獣畜とは牛・馬・豚・めん羊・山羊を指し(第3条)、解体も同じ扱いだ(第13条第2項)。

つまり日米とも、線は育てることとさばくことの間ではなく、自分が食べることと売ることの間にある。日本では違反すると3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金が定められている(第24条)。売らないうちは制度はほとんど姿を見せず、売る側に回った瞬間に全部が立ち上がる。

州の中では通る肉が、州境で止まる

米国では州が自前の食肉・食鳥検査プログラムを持てる。FSIS(農務省食品安全検査局)によれば、そうした州は29ある。ただしそこで検査を受けた肉は、そのままでは州の中で売る前提だ。州境を越えるための仕組みが Cooperative Interstate Shipment、略して CIS で、FSIS の説明では、この枠に入った州検査の施設は連邦検査施設として運用でき、製品を州をまたぐ商取引に出せる。

入るための条件は細かい。従業員は平均して25人以下(9 CFR 332.3)。加えて連邦の衛生実施基準、SSOP と呼ばれる清掃手順の文書、HACCP の計画、水道と下水の承認、ラベルの事前審査。州が推薦し、FSIS の地区事務所が受理して、ようやく通る。

そして実際に協定を結んでいる州は、FSIS が8月19日更新のページに挙げている限りで10州だった。インディアナ、アイオワ、メイン、ミズーリ、モンタナ、ノースダコタ、オハイオ、サウスダコタ、バーモント、ウィスコンシン。29のうちの10で、輸出まで進める補足協定を結んだ州は同ページによればまだない。

9月4日の大統領令が広げにいくのは、この隙間だ。州の検査プログラム、CIS、そして Talmadge-Aiken と呼ばれる連邦と州の共同検査、この3つの参加を増やすよう指示している。小規模事業者向けの技術支援、処理を頼める施設を探せるウェブ資源、検査規則の現代化、窓口となる調整役の設置。現状と障壁についての報告は60日以内。融資制度も一本立てる。

門が広がっても、通る側の負担は消えない

大統領令がいま命じているのは、報告と検討と体制づくりだ。25人という上限は規則の側にあり、大統領令はそこには触れていない。この25人は入口の広さであると同時に、事業が育ったら出ていかなければならない天井でもある。

書類の重さも消えない。HACCP の計画は一度書けば終わりではないし、ラベルは毎回事前の審査を通す。大統領令の文言は、安全の核を保ったまま不要で負担の大きい要件を外す、という書き方をしている。どこが外れてどこが残るかは、これから出てくる規則を読まないと分からない。規則を軽くすると宣言することと、現場で守るべきことが実際に減ることは、まだ別のところにある。

自分の側の線は、どこにあるか

日本の読者にとって、この米国の門は直接には開かない。それでも、自分の側の線がどこに引かれているかは同じ手順で確かめられる。

獣畜は、届け出た上で自分と同居者が食べる分までならと畜場の外でとさつできる(と畜場法第13条第1項第1号)。鶏やあひるは別の法律の管轄で、食鳥処理を業として営むには都道府県知事の許可が要り(食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律 第3条)、原則として生体、脱羽後、内臓摘出後の3段階で検査を受ける(第15条)。ただし一つの処理場で扱う羽数が政令の定める数以下なら、確認規程の認定を受けて、自前の食鳥処理衛生管理者による確認に置き換えられる(第16条)。小さくやる人のための門は、日本の側にもある。

どちらの国でも、門の広さを決めているのは育て方の巧拙ではなく、書類と検査と人数の要件だった。自分で育てたものを人に渡そうと思ったとき、越えることになるのはそこだ。

いま自分の地域で買える肉は、どこで、誰の検査を通って店に並んでいるのだろうか。そして自分が育てたものを誰かに手渡したくなったとき、その線はどこにあると思っていただろうか?

参照

あなたの暮らしで、最初に試せることは何でしょうか。