9月4日、アメリカで畜産と食肉処理をめぐる大統領令が署名された。見出しだけを追うと、牧場主が連邦検査の施設を通さずに肉を売れるようになった、と読める。だが本文にその解禁は書かれていない。命じられているのは60日以内に出す報告で、そのうち1本は、州の検査を受けただけの産品や自家用として検査を免除された産品を、州をまたぐ流通から締め出している連邦法の条文を特定することだ。
育てる自由と、さばいて売る自由は、別の線で引かれている。その線をどう動かすかという話の前に、どの条文が線を引いているのかを数える段階にいる、ということでもある。そして同じ性質の線は日本にもある。鶏と牛豚で、高さが違う。
大統領令が命じたのは、解禁ではなく洗い出しだった
まず語の範囲を絞りたい。今回の大統領令が農務長官に指示しているのは、州が参加する3つの共同検査プログラム(州の食肉・食鳥検査プログラム、州際出荷協同プログラム、タルマッジ・エイキン協同検査プログラム)への働きかけを加速して参加を増やすことと手続きの簡素化、小規模・超小規模の処理業者に対する技術支援と研修、農務省内に窓口となる調整役を置くこと、そして検査の近代化である。
そのうえで60日以内に2本の報告を出させる。1本は共同プログラムへの現在の参加状況と、州をまたぐ販路の障害の評価。もう1本が、州検査や自家用免除の産品を州をまたぐ流通から制限している連邦法の条文の特定だ。条文を挙げさせるところまでが大統領令で、条文そのものを外すのはその先にある。
別の条では、家畜市場での不公正な取引や価格操作を扱う連邦法(Packers and Stockyards Act)の調査を優先・拡大し、人員と調査能力を増やすよう指示している。こちらも60日以内の報告つきだ。さらに、小規模・地域の食肉処理業者が操業を続け設備を広げるための保証融資プログラムを作ることも書かれている。
背景として、ホワイトハウスのファクトシートは、大手4社の牛肉処理シェアが40年前の36%から85%に上がったとしている。処理の入口が数社に集まった状態で、州の中だけで通っている肉を州境の外へ出す道を広げようとしている、という位置づけになる。
育てるところまでは自由で、さばくところから狭くなる
日本にも同じ場所に線がある。と畜場法は牛、馬、豚、めん羊、山羊を「獣畜」と定め、第13条第1項で「何人も、と畜場以外の場所において、食用に供する目的で獣畜をとさつしてはならない」と書く。
ただし、この条文にはただし書きがある。食肉販売業など食肉を取り扱う営業を営む者以外の者が、あらかじめ都道府県知事に届け出て、主として自分と同居者の食用に供する目的でとさつする場合は、と畜場の外でもよい(生後1年以上の牛と馬は除かれる)。解体も同じ枠の中に置かれている(同条第2項)。
つまり、自分で育てた豚を自分の手でさばくこと自体には、届出と自家消費という条件つきで道がある。狭いのはその次だ。第15条は、と畜場以外で解体された肉や内臓を、販売の用に供する目的で譲り受けてはならないと定めている。禁じられているのは売る側ではなく、買う側である。売れないのではなく、受け取れる相手がいない。
「さばける」と「売れる」は、同じ線ではない。
鶏は年度30万羽まで、自分の処理場で処理して売れる
鶏は別の法律が扱う。食鳥処理法は鶏、あひる、七面鳥などを「食鳥」と定め、事業として食鳥処理をするには処理場ごとに都道府県知事の許可が要る(第3条)。原則としては、とさつ前・脱羽後・内臓摘出後の3回、知事が行う食鳥検査を受けることになる(第15条)。
ここに小規模向けの特例がある。年度の処理羽数が政令で定める数以下の業者は、確認の方法などを書いた確認規程を作って知事に提出し、認定を受けることができる(第16条第1項)。認定を受けた業者(認定小規模食鳥処理業者)については知事が行う3つの食鳥検査の規定が適用されず、代わりに食鳥処理衛生管理者が基準に適合するかを確認する形になる(同条第3項・第5項)。政令が定める数は、年度あたり三十万である(施行令第22条・第23条)。
30万羽という数字は入口ではなく上限だと読んだほうがいい。入口の側にはいくつも条件が並ぶ。許可を得るには処理場の構造と設備が省令の基準に適合していなければならない(第5条第2項)。処理場ごとに食鳥処理衛生管理者を置く義務があり、なれるのは獣医師、獣医学か畜産学の課程を修めて卒業した者、知事の登録を受けた養成施設の課程を修了した者、または高校卒業相当の学力があって食鳥処理の業務に3年以上従事し知事登録の講習会を修了した者に限られる(第12条第1項・第5項)。置いたら15日以内に届け出る(同条第6項)。認定を受けた後も、年度あたり政令の数を超えて処理することはできない(第16条第4項)。施設と人を先に用意できるかどうかが、実際の分かれ目になる。
自分の食べものを、どこまで自分の手で扱うか
アメリカで動こうとしているのは、州の中では通っている肉を州境の外へ出せるようにする話で、日本の線が同じ方向に動く根拠にはならない。ただ、線がどこにどの高さで引かれているかは、日本でも条文を開けば読める。
鶏なら、施設と有資格者を用意して許可と認定を取り、年度30万羽の枠の中で処理して売る道がある。牛や豚なら、届出をして自家消費までにとどめる道と、地域のと畜場を使う道に分かれる。どちらを選ぶかで、必要になるものも、諦めることになるものも変わる。
肉が食卓に並ぶまでに、誰の手を何回通るのか。その回数は、線がどこに引かれているかで決まっている。あなたの地域で買える肉は、どこで処理されているだろうか?