MetaMask のエージェント用ウォレットが、順番待ちを経ずに手元へ入る形になっている。公式のクイックスタートには招待コードや事前登録の記載がなく、npm で導入して初期設定まで進む手順がそのまま載っている。
AIに金銭を動かす権限を渡すという行為が、申し込んで待つものから、その日のうちに終わる手順に変わったということだ。
ただし手順が短くなったぶん、決めるべきことは手前に寄る。何を選ばされるのかを先に見ておきたい。
入口に置かれているもの
公式ドキュメントによれば、必要なのは Node.js の22系以降と、skills に対応したAIエージェント(Claude Code、Codex、Cursor などが例示されている)。CLI を npm install -g @metamask/agent-wallet@latest で入れ、npx skills add MetaMask/agent-skills でスキルを足し、あとはエージェントに設定を頼む——というのが導入の全体像だ。
一方で、MetaMask 公式のニュース記事のほうは早期アクセスの案内のまま置かれており、一般提供の時期は「この夏」と書かれている。案内文と実際の導線が同じ速さで更新されていない状態にある。手順が通るかどうかは、告知ではなくドキュメント側を見たほうが早い。
起動する前に、三つ選ばされる
初期設定で決めるのは、サインインの方法(Google、メールのパスワードレス、MetaMask Mobile の QR)、ウォレットの持ち方(サーバー側のウォレットを使うか、自分のウォレットを持ち込むか)、そして動作モードだ。
モードは二つある。Guard Mode は許可したプロトコルの中だけで動き、1日あたりの出金上限を設け、方針の外に出る操作は2FAで人間に戻す。Beast Mode はどのプロトコルでも扱えるようになり、悪性と判定された取引だけが止まって2FAに回る。取引前のシミュレーション、Blockaid による脅威スキャン、MEV 保護は既定で走るとされている。
そして資金は自動では入らない。別のウォレットか取引所から自分で送る、と明記されている。「設定が終わった」と「動き出せる」のあいだに、自分の手でひとつ操作が挟まる形だ。
「最大1万ドル」の線が引かれている場所
目を引くのは Transaction Protection の補償だが、ここは範囲を丁寧に読む価値がある。
公式の製品ページは、補償を月あたり最大1万ドルとしたうえで、対象を Blockaid が対応するチェーン——Ethereum、Linea、Arbitrum、Avalanche、Optimism、Base、Polygon、BSC、Sei——と名指しで挙げている。
一方、取引できる範囲はそれより広い。同じページは Hyperliquid と EVM 系のチェーン、Robinhood、そして Solana を対応先として並べている。
つまり動かせる場所と、保護が効く場所は同じ大きさではない。さらに公式ニュース側の書き方は「安全と判定された取引が最大1万ドルまで裏付けられる」であり、条件が付くことも併記されている。補償という語から受け取る安心の大きさと、実際に効く範囲のあいだには、読み合わせて確かめるべき距離がある。
上限額をいくらにするかは設定画面で決められる。どこまでが補償の内側かは、設定画面には出てこない。
枠を引くのは、いつも設定より手前だ
AIに渡しているのは資金そのものではなく、判断の一部だ。どのプロトコルを許すか、1日いくらまでか、どのモードで走らせるか——選択肢は用意されているが、選ぶ基準までは付いてこない。
手順が短くなるほど、決める場面は前倒しになる。導入は数分で終わり、その数分のあいだに、上の三つと補償の範囲を同時に飲み込むことになる。
あなたなら、保護の線の内側だけで動かすだろうか。それとも、線の外に出る余地まで含めて枠を引くだろうか?