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Marathon Fusion の核融合は電気より先にがん治療へ届くか

核融合スタートアップ Marathon Fusion が、中性子で医療用の銅同位体を作り始めたと発表。がん治療の候補テルビウム149の製造経路も提案したが、要の反応値は未実測で論文は査読前だ。

Marathon Fusion の核融合は電気より先にがん治療へ届くかのイメージ

この記事でわかること

  • Marathon Fusion が10月22日、核融合の中性子で亜鉛から医療用の銅同位体を作り始めたと公式 X で発表した
  • 9月24日には、半減期4.1時間のテルビウム149を長寿命のガドリニウム150経由で病院近くのサイクロトロンで作る経路を提案した
  • 要の反応の断面積は未実測で、論文は査読前。生産量・純度・承認の見通しは公表されていない

米サンフランシスコの核融合スタートアップ Marathon Fusion が10月22日早朝 (日本時間) に公式 X で連続投稿を出し、核融合で生まれる中性子を使って亜鉛を銅の放射性同位体に変え、がんの診断と治療に使う医療用同位体を作り始めたと明かした。発電の実現はまだ先でも、核融合の装置が先に役立つ場所として同社が名指ししたのは、病院で使う薬の材料だった。

同社は9月24日にも、がん治療の候補として数十年研究されながら、量が足りずに人での治験へ進めなかった同位体、テルビウム149の作り方を提案している。根拠はどれも会社の発表と査読前の論文で、生産量や承認の話はまだ出ていない。読み手が持ち帰れるのは、核融合のニュースを「いつ電気が来るか」以外の物差しで測る視点だ。

金の話の次に置かれた本題

連続投稿の書き出しは錬金術の話だった。先月は水銀を安定した金に変え、CERN の記録を10倍上回った。先週は自社のプラズマ遠心分離機で同位体を濃縮し、40年続いた旧ソ連の記録を破った。いずれも同社の主張だ。そのうえで「なぜやるのか」の答えとして出てきたのが医療だった。標的放射線治療の採用が急増し、既存の原子炉では需要に追いつかない、と同社は書く。

必要な条件の書き方も具体的だ。直径1センチの標的に、毎秒1兆個の中性子を、何年も途切れずに当て続ける。出力の大きさだけでは足りず、反応を狭い場所に高い密度で集める必要がある、という説明になっている。

治験を止めてきた同位体の不足

標的放射線治療は、放射性同位体をがん細胞に結びつく運び手に載せ、がん細胞の近くで放射線を出させる治療法だ。周りの組織への影響を抑えながら局所に線量を届ける仕組みで、広く使えるかどうかは同位体の供給に左右される。

同社のページは、この供給が冷戦期の備蓄に頼っており、不足や遅れ、治験の患者登録の停止が起きていると書く。前臨床で有望な研究でも、材料が足りないために人での試験へ進めないものがある、とも。

テルビウム149はその典型として挙げられた。1950年に見つかり、30年以上前から標的アルファ線治療の候補とされてきた。アルファ線は体の中で短い距離しか飛ばず、近くのがん細胞を壊す。陽電子も出すため、治療しながら腫瘍を画像で見られる可能性もある。ただし半減期は4.1時間しかない。半減期6.6日のルテチウム177のように中央の施設で作って配る方法が使えず、これまで作れた施設は数か所にとどまり、治験に要る量に届いていない。

長持ちする前駆体を運び、病院の近くで仕上げる

9月24日の提案は、この時間の壁を回り込む設計だ。半減期約180万年のガドリニウム150を中央の施設で作って備蓄し、各地の医療用サイクロトロンへ送る。そこで陽子を当て、患者の近くでテルビウム149に変える。PET 検査で使うフッ素18を、濃縮した酸素18から作る仕組みを手本にしたという。

論文の要旨によれば、仕上げの工程に要る14メガ電子ボルト以上の陽子は、世界で700台を超えるサイクロトロンで出せる。ガドリニウム150の原料はユーロピウム151で、既存の技術でも年に数万回分の投与を支えられる量を作れると同社は試算する。1回1ギガベクレル・年4000万回分という大きな想定でも、必要な中性子は重水素と三重水素の核融合で定常6.8メガワット分にとどまる、というのが論文の見積もりだ。

ここで核融合が電気より先に効いてくる。同社の別の論文は、検査薬テクネチウムのもとになるモリブデン99の世界需要を、3メガワット級の装置で満たせると計算している。発電にはプラズマの利得を大きく上げる必要があるが、同位体づくりは利得が1を下回る装置でも採算が合いうる、という主張だ。電力の実証を2030年代に置く核融合企業がいくつもあるなかで、同位体はそれより早く作れる、と同社は位置づけている。

まだ測られていない一つの値

ただし、経路の要はまだ計算の段階にある。ガドリニウム150に陽子を当ててテルビウム149ができる反応の起こりやすさ (断面積) は、直接の実測がない。同社は隣の同位体で確かめた計算モデルで予測しており、研究者の Jason Parisi 氏は、次は実験で確かめることが重要だと述べている。

ほかにも分かっていないことは多い。論文はどれも査読前のプレプリントだ。今回作ったという銅の同位体がどれなのか、どれだけの量と純度で作れたのか、規制当局の承認や病院への供給の見通しは、どの資料にも書かれていない。薬として患者に届くまでには、材料の確保の後に治験と承認が続く。材料がそろうことと、治療として役立つことは別の段階の話だ。

次に確かめられる一点は、同社が次の段階に挙げた断面積の実測結果だ。日付は示されていないが、arXiv の論文 2609.25554 の改訂版か、同社ニュースルームの次の発表に載るだろう。予測どおりの値が出れば経路は現実味を増し、外れれば設計を組み直すことになる。

ことば

  • 標的アルファ線治療 — 放射性同位体をがん細胞に結びつく分子に載せ、飛ぶ距離の短いアルファ線で近くの細胞だけを狙う治療法。材料になる同位体の多くが希少で、供給が研究の進み方を左右している。
  • 半減期 — 放射性同位体の量が半分になるまでの時間。テルビウム149は4.1時間と短いので遠くへ運べず、作る場所と使う場所を近づける工夫が要る。
  • サイクロトロン — 陽子などを円軌道で加速する装置。病院や研究所で PET 検査の薬を作るのに使われ、同社の提案では最後の仕上げの工程をここで担う。

核融合のニュースを読むとき、あなたは「いつ電気になるか」と「その中性子で何が作れるか」の、どちらの物差しで測っているだろうか?

参照

あなたの暮らしで、最初に試せることは何でしょうか。