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佐川急便5,323万件の秋、預ける個人情報をどう減らすか

荷物を受け取っただけ、メールマガジンを読んでいただけで、名前と住所は自分で選んでいない会社の奥に預けられていた。パスキー、使い分けるメールアドレス、スマホのマイナンバーカード、自分で持つ鍵。預ける量を減らす道具と、その続けにくさを並べる。

佐川急便5,323万件の秋、預ける個人情報をどう減らすかのイメージ

この記事でわかること

  • この秋の漏えいは、荷物の受け取りやメールマガジンなど、本人が預けた覚えのない経路で起きた
  • パスワードは変えられるが、住所や免許証の画像は変えられない。守りの重心は預ける前へ移る
  • パスキー・転送用アドレス・スマホのマイナンバーカード・自分で持つ鍵には、それぞれ続けにくさがある

漏えいの知らせが、自分で選んだ覚えのない預け先から届く秋になった。佐川急便は10月23日、流出の可能性がある個人情報を最大約5,323万件と発表し、荷物を受け取っただけの人もお届け先として対象に入った。

漏れた後の手当てには、すでに公的な手順がある。この記事が考えたいのは、その一段手前だ。そもそも何を預けずに済ませられるか。そして、預けないことには何がついてくるのか。

まず、確かめられること

この秋の漏えいには、共通点がある。漏れた先の多くが、本人が「預けた」と意識していない会社だった。

  • 佐川急便 — 10月23日の第5報で、最大約5,323万件。重複を含み、実人数ではない。依頼主だけでなく、お届け先の氏名・住所・電話番号が入っている。通販で買った物を佐川急便で受け取っただけでも、対象になりうる
  • ユミルリンク — 企業のメール配信を請け負う会社で、10月26日の第二報で延べ5,162万件超。店や鉄道会社、自治体のメールマガジンを受け取っていれば、その宛先リストを預かっていた会社の側から名前が載る
  • エックスサーバー — 委託していたメール配信サービス、ブラストメールへの不正アクセスで、配信先リストの全件が漏えいした (10月23日公表)。破られたのはエックスサーバーではなく、委託先のさらに奥だった

数字の大きさより、経路のほうに目を向けたい。どの件も、読者の側から見れば「契約した覚えのない会社から、自分の情報が出た」形をしている。預け先は、本人が選べないところで何層にも重なっていた。

変えられる情報と、変えられない情報

情報処理推進機構 (IPA) は10月26日、個人情報が漏れたときの対処を、漏れた情報の種類ごとに整理した。分け方は4つ。ID・パスワード、クレジットカード、連絡先、本人確認書類だ。

この4つは、もう一段、二つに分け直せる。パスワードやカード番号は、漏れても変えられる。氏名・住所・生年月日、そして運転免許証の画像は、変えられない。

カーシェアのタイムズカーを運営するパーク24は10月23日の第5報で、運転免許証などの本人確認書類の画像のうち約146万件に、外部へ送られた痕跡があったと発表した。画像は暗号化して保管していたが、同社は「将来的な復号の可能性を完全に否定できるものではありません」と書いている。対象者には3,000円相当のお見舞いを渡すという。

変えられない情報は、預けた時点で、長い付き合いになる。守りの重心は「漏れた後」から「預ける前」へ移っていく。

漏れた日の手当ては、すでに手順がある

漏れた後にすることは、IPA の案内に沿えば足りる。連絡先が漏れたなら、突然届くメールや SMS は基本的に詐欺と考え、リンクを開かずに削除する。心当たりのない着払いの荷物は受け取らない。本人確認書類が漏れたなら、信用情報機関 (JICC・CIC・KSC) に漏えいの事実を本人申告として登録できる。

この案内には、日頃の対策も並んでいる。登録は必要最小限にし、使わないアカウントは削除する。多要素認証やパスキーを積極的に設定する。

漏れた後の手順は、預けている量が多いほど長くなる。だから次の章では、預ける量そのものを減らす道具を見ていく。

預ける量を減らす、四つの道具

いま手元で使えるものを、要るものと向かない場面とあわせて並べる。

一つ目は、パスキーだ。パスワードの代わりに、端末の中の鍵でログインする仕組みで、Apple の説明によれば、サービスのサーバーに保管されるのは鍵の片方の「公開鍵」だけで、秘密は端末側に残る。サーバーが破られても、盗まれるパスワードがそもそもない。

ただし、端末を失くしたときの備えが要る。Apple は、すべての端末を失っても iCloud キーチェーンから復旧できるとしているが、その条件は Apple Account の認証、登録した電話番号への SMS、そして以前の端末のパスコードだ。パスコードの入力に計10回失敗すると、復旧の記録は破棄される。Google は、端末を失くしたら別の端末からアカウントに入り、そのパスキーを削除する手順を案内している。便利さの裏で、「アカウントと電話番号とパスコード」の三つを自分で守り続けることになる。

二つ目は、サービスごとに使い分けるメールアドレスだ。Apple の「メールを非公開」は、サービスごとにランダムな転送用アドレスを作り、届いたメールを自分のアドレスへ転送する。使うには iCloud+ の契約が要る。Firefox Relay は、無料版で5個まで同じような転送用アドレスを作れる。どこから漏れたかが分かり、そのアドレスだけを止めることもできる。向かないのは、本人確認の書類と同じアドレスを求められる手続きや、長く使う公的なサービスだ。転送の仕組みが止まれば、届くはずのメールも止まる。

三つ目は、スマホのマイナンバーカードだ。Android のスマホの Google ウォレットに入れるマイナンバーカードが、10月20日に始まった。Google によれば、新しく加わった属性証明の機能で、対面での会員登録の本人確認、酒やたばこの年齢確認、住民割引の住所確認などに使える。実物のカードを持ち歩いたり、コピーを渡したりする場面が減る。

その分、スマホそのものの守りの重みは増す。Google のヘルプでは、Android 12以降で画面ロックを設定した端末が要り、追加には実物のカードも必要だ。端末を失くしたら、マイナンバー総合フリーダイヤルに電話して一時停止するか、ウォレットからカードを削除する。オンラインの民間サービスでの本人確認に使えるのは、まだこれからだ。

四つ目は、手持ちの登録の棚卸しだ。IPA の案内どおり、使っていないアカウントを消す。登録の欄が任意なら空けておく。地味だが、四つのうちで最も効く。

自分で鍵を持つと、何が変わるか

預けない暮らしを突き詰めると、鍵を自分で持つところに行き着く。暗号資産のハードウェアウォレットが、分かりやすい例だ。鍵を自分の手元に置けば、取引所が破られても、自分の資産は巻き込まれない。

ただ、この秋は、その手前にも穴があることを見せた。

レジャー (Ledger) は10月15日の公式ブログで、犯罪グループが正規品の端末を買って開け、隠れた部品を仕込んでから、東南アジアの再販業者を通じて流通に戻していたと説明した。同社のチップや OS、サーバーに欠陥はなかったという。鍵が守られていても、端末を手に入れる経路を信じたところで破られた。

もう一つは Keystone だ。10月25日、公式サイトへの不正アクセスで、購入者の氏名・連絡先・配送先住所・注文内容が第三者に渡ったと公表した。秘密鍵やリカバリーフレーズは対象外だ。それでも「誰がこの端末を買ったか」という記録は、ネットショップの側に預けられていた。

そして、自分で鍵を持つことの最大の重さは、失くしたときに戻してくれる窓口がないことにある。家族に何をどう残すかも、自分で決めておかなければならない。「預けない」は「全部を自分で持つ」ことではない。預け先を減らし、残す預け先を選ぶことだ。

AI に任せるとき、渡しているもの

預け先は、これから一つ増えようとしている。AI エージェントだ。

米メディアの Axios は10月22日、利用者の ID とパスワードで銀行の口座に入る AI エージェントを、米国の大手銀行が締め出し始めたと報じた。モルガン・スタンレーは遮断し、JP モルガン、バンク・オブ・アメリカ、シティは制限しているという。銀行の側の言い分は、本人が許可したエージェントか、勝手に動いているものかを見分けられない、というものだ。多くの銀行は、読み取りだけを認める方向に傾いているとも伝えられた。一方で、モルガン・スタンレーの広報は「自社の基盤に入り込む暴走した AI エージェント」は確認していないとしている。

国内にも、同じ形の出来事があった。お名前.com のデスクトップクラウドでは、FX の自動売買のために仮想デスクトップに保存していた取引口座のログイン情報が取られ、口座で不正な操作が報告された。便利な道具に合鍵を渡すと、合鍵の置き場所がもう一つ増える。

AI に何かを任せるときは、何の権限を渡しているかを確かめたい。読むだけで足りる用途に、動かす権限まで渡していないか。任せる範囲を相手の側で区切れる仕組みが整うまでは、それが自分で引ける線になる。

預けない暮らしの、続けにくさ

ここまでの道具には、どれも続けにくさがある。

  • 手間と知識が要る。設定の場所は端末やサービスごとに違う
  • 端末を失くすと、一度に困ることが増える。パスキーもスマホのマイナンバーカードも、同じ一台に寄っていく
  • 家族、とくに年配の家族ほど負担が重い
  • 預けない選択肢そのものが用意されていないサービスも多い

全員が同じところまでやる必要はない。暮らしのどこに手間をかけ、どこは預けて任せるか。その配分を、自分の事情で決めればいい。

私たちは、どう線を引くか

線の引き方を、登録の画面の前で考える問いにしておく。

  • これは、変えられる情報か、変えられない情報か
  • この会社が破られたら、自分は何を失うか
  • 預けずに、条件だけを示す方法は用意されているか

答えが「変えられない・失うものが大きい・ほかの方法がない」なら、それは今の時点で預けざるをえない場面だ。逆に、どれか一つでも違うなら、預ける量を減らす余地がある。

見ておきたい点

政府は10月26日の関係閣僚会議で、漏えいへの「緊急対策パッケージ」を来週中をめどにまとめるとした。首相官邸の公表で中身が出たら、相談窓口や情報の出し方など、個人の側に届く部分を確かめたい。もう一つは、Android のマイナンバーカードがオンラインの民間サービスでの本人確認に使えるようになる時期だ。デジタル庁と Google の案内で「今後」とされている部分が、いつ埋まるかを見ておきたい。

ことば

  • パスキー — パスワードの代わりに、端末に入った鍵でログインする仕組み。サービスの側には公開鍵しか置かれないため、サーバーが破られても盗まれるパスワードがない。漏えいが続くなかで、IPA も設定を勧めている。
  • 属性証明 — 氏名や住所、年齢といった本人の情報を、カードの実物を渡さずにスマホで確かめてもらう機能。Android のマイナンバーカードで10月20日に加わり、会員登録の本人確認や年齢確認、住所確認に使える。
  • 二次被害 — 漏れた情報を使って起きる、その後の被害。偽のメールや電話、なりすましの申し込みなどが典型で、変えられない情報が漏れたときほど長く続く。

次に何かを登録するとき、あなたはそれを預けるだろうか。それとも、自分の手元に置いたまま、条件だけを示す道を探すだろうか。

一次ソース

あなたの暮らしで、最初に試せることは何でしょうか。