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カナダ政府の Starlink 分散から考える、家のネット回線の予備

カナダが北極の軍用回線を自国の Telesat に任せた。家庭の契約は自由なままだが、空から届く回線にも持ち主がいる。自分の家の回線を書き出し、一つが止まったら何が残るかを考える。

カナダ政府の Starlink 分散から考える、家のネット回線の予備のイメージ

この記事でわかること

  • カナダ政府は北極圏の軍用衛星通信を自国の Telesat に任せる約23億カナダドルの契約を結んだ。家庭の Starlink 契約は対象外
  • 自前の衛星網でも、衛星の打ち上げは SpaceX のロケットに頼っている。一本だけに頼らない備えは国でも簡単ではない
  • 家の回線を光・スマホ・衛星と書き出し、停電や障害で一つが止まったときに何が残るかを確かめる

カナダ政府は8月4日、北極圏で軍が使う衛星通信を、自国の衛星会社 Telesat に任せる契約を結んだ。空から届くネット回線が、速さや値段のほかに、誰の手にあるかで選び直される時代に入ったことを示す出来事だ。

カーニー首相は9月、米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューで、米 SpaceX の衛星インターネット Starlink について「分散していく。間違いなく」と語ったと報じられている。対象は政府の調達で、カナダの家庭が Starlink を契約することは今も自由だ。それでも、山あいや離島で衛星回線に頼る暮らしにとって、遠い国の防衛だけの話では済まない。

カナダで何が決まったか

契約したのはカナダの国防投資庁 (Defence Investment Agency)。北極圏とその周辺の高緯度地域で、カナダ軍が安全に使える衛星通信を整える計画の第一段階だ。当初の契約額は約23億カナダドルで、延長の選択肢を含めると契約期間は15年に及ぶ。

Telesat は低い軌道を回る衛星網 Lightspeed を建設中で、この契約で計画を156基から225基に増やす。追加の69基はカナダの MDA Space が造る。軍向けのサービスは2028年に始まり、範囲は北緯65度から90度まで、北極圏のほぼ全域にあたる。

政府の発表に Starlink の名前は一度も出てこない。それでも報道では、この契約が首相の発言と並べて伝えられている。10月20日には駐カナダ米国大使のピート・フークストラ氏が、カナダは SpaceX から離れると意識的に決めた、と述べたと報じられた。

ここで線を引いておく。今回決まったのは軍の通信の調達で、カナダの家庭や企業が Starlink を使うことを止める決まりではない。報道の範囲でも、SpaceX をカナダから締め出す連邦の規則は示されていない。

空から届く回線の「持ち主」

衛星のネット回線は、空から降ってくる公共物のように見える。アンテナを屋根に置けば、電柱も光ファイバーもない場所でつながる。けれど、その電波を送っているのは特定の会社の衛星で、会社はどこかの国の法律と判断の下で動いている。

カナダ政府が問題にしたのは、北極の軍の通信という止まってはいけない回線を、他国の1社に預けたままでよいかという点だった。Telesat の最高経営責任者ダン・ゴールドバーグ氏は、この契約によって軍が安全で強靭な、主権のある接続を、当初の計画より何年も早く手にすると述べている。

家庭の回線も、規模は違うが同じ土台の上にある。光回線は地域の通信会社の設備を通り、スマホの電波は携帯会社の基地局から届き、衛星回線は衛星を運用する会社のサービスだ。どれも、会社の経営判断や料金の改定、規制、国と国の関係の変化から完全には自由になれない。普段は意識しないその持ち主を、カナダは国の単位で数え直した。

自前の網でも、打ち上げは同じ会社のロケット

ただし、話はきれいには分かれない。Telesat が増やす69基の衛星を宇宙へ運ぶのは、SpaceX のロケット Falcon 9 だ。Telesat 自身の発表がそう明記している。

回線のサービスは自国の会社に移しても、衛星を軌道に乗せる手段は、いまのところ同じ会社に頼っている。カーニー首相は、欧州や韓国などと組むことで依存を減らせると語ったと報じられているが、それは年単位の時間がかかる道だ。

一本だけに頼らないという方針は、言うのは簡単で、実際にやると手間と費用がかかる。国でさえ、全部を自前にはできない。家庭ならなおさらだ。だから家で考えるべき問いは、どれか一つが止まったときに何が残るか、のほうになる。

自分の家の回線を書き出してみる

紙を1枚用意して、家がネットにつながる道を書き出してみる。

  • 固定の回線: 光回線、ケーブル、衛星アンテナなど。どの会社の、どの設備を通っているか
  • スマホの回線: 家族の携帯はどの会社か。全員が同じ会社なら、その会社の障害で全員が同時に止まる
  • その他: スマホのテザリング、モバイルルーター、職場や学校の回線

書き出すと、意外に一本に寄っていることが多い。固定回線とスマホを同じ会社にまとめて割引を受けている家は、その会社の障害でどちらも止まりうる。まとめるかどうかは家ごとの判断だが、少なくとも重なっていることは知っておける。

停電も一緒に考えておきたい。光回線の終端装置 (ONU) も Wi-Fi ルーターも衛星アンテナも、電気がなければ動かない。停電の間に残るのは、多くの場合、電池で動くスマホと携帯の電波だけだ。ルーターをモバイルバッテリーや小さな蓄電池で動かせるかどうかは、機器の電源の表示を見れば確かめられる。

もう一つの手がかりが、公衆無線 LAN の 00000JAPAN (ファイブゼロジャパン) だ。大きな災害や長引く通信障害のときに無料で開放される共通のネットワークで、2023年9月には携帯5社と無線LANビジネス推進連絡会が、通信障害の際にも開放する方針を発表した。誰でも使えるが、緊急時の使いやすさを優先して通信は暗号化されていない。パスワードやカード番号を打ち込む用途には向かない。

予備にはコストもついてくる。2本目の回線を持てば、毎月の通信費は増える。衛星回線は空の見通しが要り、アンテナを置ける場所を選ぶ。テザリングは手軽だが、契約によっては使える量に上限がある。全部を二重にする必要はなく、自分の暮らしで何時間止まると困るかから逆算するのが現実的だ。在宅で仕事をする人と、週末だけ山の家で過ごす人とでは、答えが違って当然になる。

カナダの話の続きは、Telesat が四半期ごとに米証券取引委員会 (SEC) へ出す報告で追える。Lightspeed の打ち上げが進み、2028年のサービス開始が予定どおりかは、そこで確かめられる。家の側で今日確かめられるのは、自宅のルーターと光回線の終端装置の電源が、何につながっているかだ。

ことば

  • Starlink — 米 SpaceX が運営する衛星インターネット。屋根やベランダに置いたアンテナで空の衛星とやり取りするため、光回線の届かない場所でもつながる。カナダ政府が調達を分散しても、個人の契約はこれまでどおり各自の選択だ。
  • Telesat — カナダの衛星通信会社。建設中の低軌道衛星網 Lightspeed の全世界でのサービス開始を2028年1〜3月期に見込んでおり、北極の軍用回線はその網の上に載る。
  • 低軌道衛星 — 地上からおおむね2,000kmより低い軌道を回る衛星。地上との距離が短いぶん通信の遅れが小さく、多くの衛星を並べて地球全体を覆う。Starlink も Lightspeed もこの方式をとる。

あなたの家のネット回線は何に頼っていて、そのうち一つが止まったとき、何が残るだろうか?

参照

あなたの暮らしで、最初に試せることは何でしょうか。