テスラは日本時間10月16日午前、新型ロードスターを生配信で発表した。逆さに反った坂を上り、空中で回って着地する映像が広がったが、暮らしの側から見ると、この車が投げかけているのは「空を飛ぶ車に乗れるか」より「自分で運転する車は、これからどこに残るか」という問いだ。
テスラは自動運転の車を前に出す会社でありながら、この車を「本物の操縦士の車」と呼んだ。運転を機械に任せる流れと、自分で操る楽しみ。その分かれ目に、いま何が置かれたのかを確かめたい。
まず、発表された中身
テスラが公式 X と製品ページで示した新型ロードスターは 3 つの仕様に分かれる。
- Performance: 2 人乗りで公道向け。車体の下の空気を吸い出して路面に押し付ける仕組みと、動く空力部品を持つ。時速 0 から 60 マイル(約 97 キロ)まで 1.6 秒未満
- Thrust: 2 人乗りでサーキット向け。後ろに圧縮ガスを噴く推進装置を積み、0-60 マイルは 0.9 秒未満
- Rocket: 1 人乗り。推進装置を車体のまわりに並べ、上向きの加速や回転までこなす。テスラは「そう、飛べる」と書いた
航続距離は 300 マイル(約 480 キロ)を超えるとされる。生産開始は2028年とイーロン・マスク氏が述べ、車両の価格はまだ示されていない。
映像の車と、買える車は別のもの
発表で見せた宙返りは、最上位の Rocket の動きだ。製品ページは Rocket について「公道での使用は認められていない」と明記し、招待制で、地域によっては選べないとしている。報道によれば、会場での宙返りと着地は事前にプログラムされた動きで、運転席に座っていた人型ロボットは演出だった。
公道を走れるのは Performance で、宙には浮かない。空を飛ぶ車で通勤する暮らしは、この発表では始まっていない。始まったのは、逆さの坂に張り付けるほどの吸着力を、公道向けの車に持ち込む試みのほうだ。
自動運転の会社が、なぜ「操る車」を作るのか
テスラは操作系を手動にし、座席を固定式にして車体を軽くしたと説明する。マグネシウムやチタン、炭素繊維を使い、運転する人の操作にほぼ即座に応えることを狙った。マスク氏は発表の場で、この車を人が運転する最後の世代の車の最高峰と位置づけた。
同じテスラは、ハンドルもペダルもない自動運転専用車の Cybercab を前に出している。日々の移動を機械が担うようになるほど、自分で運転することは移動の手段から、選んでする体験へと性格を変えていく。写真を撮るのがスマートフォンの仕事になっても、あえてフィルムカメラを選ぶ人が残ったのと似ている。新型ロードスターは、その変化を先回りして形にした車と読める。
自分で運転することに、どこまで払うか
ただし、この車を手に入れる道のりは軽くない。テスラの予約ページでは、Performance は当日 5,000 ドル、10 日以内に 4 万 5,000 ドルで、合計 5 万ドルを先に預ける。当日分は全額返金可能と書かれている。Thrust は合計 25 万ドルで 1 人 1 台まで。どちらも、最終価格を知らないまま払うことになる。
待つ時間も長い。新型ロードスターは2017年に初公開され、当初は2020年の納車を掲げたが、延期を重ねてきた。生産開始の2028年まで、さらに 2 年以上ある。日本で買えるのか、買えるならいつなのかも、発表からはまだ読めない。
運転そのものを楽しみとして残したい人にとって、選択肢は一つではない。いまの車を長く乗り続けることも、サーキットや運転を楽しむ場に出かけることも、操る楽しみを手元に置く方法になる。新型ロードスターは、その中でいちばん遠く、いちばん高い選択肢として現れた。
確認できる次の点
次に見るのは、テスラのロードスター予約ページだ。最終価格と、日本を含むどの地域で予約できるのかが、そこで示されるはずだ。もう一つは、次の四半期決算の説明会で、2028年の生産に向けてどの工場で作るのかに触れるかどうか。延期の多かった車だけに、生産の場所が具体的に出るかが、待つかどうかを決める手がかりになる。
ことば
- コールドガス・スラスター:燃料を燃やさず、タンクの圧縮ガスを噴き出して進む力を得る装置。人工衛星や宇宙船の向きを整えるのに使われてきた方式で、テスラはこれを車の加速と空中での姿勢の安定に使う。
- 自動運転専用車:人が運転することを前提にせず、ハンドルやペダルを持たない車。テスラの Cybercab がその例で、人は乗るだけになる。
毎日の移動を機械に任せる日が来たとき、あなたは自分で運転する時間を、どんな形で手元に残したいだろうか?
参照
- Tesla 公式 X の走行映像「Real life, baby」(反り返った坂を駆け上がる場面)
- Tesla 公式 X の発表会生配信(10月15日・米国時間)
- Tesla 公式 X の仕様発表(3仕様・航続距離・0-60 マイル加速)
- Tesla 公式 X の内装の説明(手動操作系・固定座席・軽量素材)
- Tesla 公式 Roadster 製品ページ(Rocket の公道使用不可・地域の注記)tesla.com
- Tesla 公式 Roadster 予約ページ(予約金の額と返金の扱い)tesla.com
Yahoo Finance:発表会の詳細と2028年の生産開始Yahoo Finance
TechCrunch:発表会の走行とマスク氏の発言(10月15日)TechCrunch
Engadget:予約金の構成と演出の内訳Engadget