経済産業大臣は10月22日、神奈川県の「箱根小田原からくり細工」と、京都府の「京竹工芸」「京七宝」を、伝統的工芸品産業の振興に関する法律 (伝産法) にもとづく伝統的工芸品に新しく指定し、官報で告示した。国が指定する伝統的工芸品は、これで247品目になった。
同じ日に、九谷焼・加賀友禅・京人形・宮古上布の4品目で、指定の中身も書き換えられた。絵付けをしない九谷焼や、無地や縞の宮古上布が対象に入る。伝統の線引きが、いまの作り方と使われ方に合わせて動いた日でもある。初報は速報で伝えた。
指定の条件は「毎日使う道具」から始まる
伝産法第2条が定める指定の要件は5つある。
- 主として日常生活の用に供されるもの
- 製造過程の主要部分が手工業的であること
- 伝統的な技術または技法で作られること
- 伝統的に使われてきた原材料が、主たる原材料であること
- 一定の地域で、少なくない数の人が製造に携わっていること
最初に置かれているのが日常生活の用だ。ガラスケースに飾る一点物ではなく、使われることを前提にした道具が対象になっている。最後の要件は、作り手が一人ではなく地域にまとまっていることを求める。国の指定は、産地という仕組みそのものに与えられる。
今回の3品目は、8月24日の産業構造審議会の伝統的工芸品指定小委員会で審議され、新規指定が了承されていた。
からくり箱、竹籠、七宝の器
経済産業省の説明では、3品目の中身はこうだ。
箱根小田原からくり細工は、小物入れにからくりを組み込んだ指物細工として生まれた。秘密箱をはじめとするからくり箱、組木、貯金箱、たばこ入れなどの小物入れとして使われ、仕掛けを楽しむ品、お土産としても親しまれてきた。神奈川県のイベント案内は、県内の指定品目として鎌倉彫・箱根寄木細工・小田原漆器の3つを挙げている。そこにもう1つ加わる。
京竹工芸は、良質な竹が育つ京都で、室町時代以降の茶道・華道の広がりとともに籠や花入れが作られ、籠編みや丸竹の加工の技術が育ってきた品だ。
京七宝は、金属の器の表面にガラス質の釉薬を高温で焼きつけて飾る技法で作られ、花瓶、盃、飾り金具、装身具などがある。室町時代に産業として成り立ち、明治期に釉薬の改良で技術が進んだ。並河靖之が有線七宝の技法で、世界で賞賛される七宝を生んだ。
九谷焼は絵付けなしも、宮古上布は無地も
指定内容が変わった4品目は次のとおり。
- 京人形 (京都府・1986年指定) — 屏風を加え、技術・技法と原材料を変更
- 九谷焼 (石川県・1975年指定) — 絵付けを施さない製品を対象に加える
- 加賀友禅 (石川県・1975年指定) — 伏せのりを可能にする技術・技法を追加
- 宮古上布 (沖縄県・1975年指定) — 無地や縞、格子柄の製品を対象にする
九谷焼といえば色鮮やかな上絵付けの印象が強いが、白いままの器も対象に入る。毎日の食卓で使いやすい無地の器や、普段着に合わせやすい縞や格子の布が、指定の範囲に加わった形だ。指定は技を守る枠であると同時に、作り手がいまの暮らしに合わせて品を変えていくことを、国が後から認める手続きでもある。
指定で変わること、変わらないこと
経済産業省によると、指定を受けると「伝統的工芸品」の名称が使えるようになる。さらに産地の組合などが振興計画を作って認定を受ければ、後継者の育成や需要の開拓に、伝統的工芸品産業支援補助金を使える。
変わらないこともある。指定は品目と技法に対するもので、一つひとつの品の値段や手に入りやすさを決めるものではない。手仕事が主であることが要件である以上、量産の品と同じ値段や納期にはなりにくく、竹や布のような素材は、扱い方や手入れの仕方を覚える必要もある。今回の発表には、各産地の作り手の数や価格帯は書かれていない。
使う側にとっての選択肢は、ひとつではない。毎日使う器や籠を一つだけ手仕事の品に替えてみる。土産物として仕掛けを楽しむ。あるいは、量産の品で十分だと決める。どれを選ぶかを考える材料として、指定の5つの要件は、その品が何を大事にして作られてきたかを示す目印になる。
次に確かめられるのは、11月7日から9日にパシフィコ横浜で開かれる KOUGEI EXPO in KANAGAWA (第43回伝統的工芸品月間国民会議全国大会) だ。経済産業省などが主催し、全国の伝統的工芸品の展示・販売・実演が予定されている。時間は10時から17時 (9日は16時まで)。出展する品目は、執筆時点で点検のため公開を止めている特設サイトの再開を待って確かめたい。
ことば
- 伝産法 — 伝統的工芸品産業の振興に関する法律。暮らしに豊かさを与えることや技術の伝承、地域の雇用を目的に、指定の要件と産地への支援を定める。今回の3品目もこの法律の第2条の要件で審議された。
- 指物細工 — 板を組み合わせて箱や棚などを作る木工の技法。箱根小田原からくり細工は、この箱づくりの中に開け方の仕掛けを組み込み、決まった手順でしか開かない小物入れに仕上げてきた。
- 有線七宝 — 器の表面に細い金属線で図柄の輪郭を立て、その区画に釉薬を差して焼き上げる七宝の技法。明治期には並河靖之がこの技法を使い、京七宝を世界で評価される品にした。
量産の品と手仕事の品、あなたの暮らしのどこに、どちらを置くだろうか?
