Google のスンダー・ピチャイ CEO は日本時間10月31日、宇宙で AI の計算をする研究計画「Project Suncatcher」の試作衛星で、軌道上の TPU(Google の AI 用チップ)を起動し、プロンプトを実行して、最初の完全な応答を地上で受け取ったと X で明らかにした。返ってきた応答は俳句だったという。
数週間前に打ち上げた試作衛星へ地上からコマンドを送り、チップを立ち上げ、答えを受け取る。プログラミングで最初に動かす「hello world」にあたる一歩で、宇宙の AI 計算の構想が、紙の上から実機へ移った。
なぜ宇宙で計算するのか
Google Research が2025年11月に公開した構想によると、軌道を選べば、太陽光パネルは地上の最大8倍の電力を生み、ほぼ途切れずに発電できる。昼と夜の境目をなぞる「夜明け・夕暮れ」型の太陽同期軌道を使い、蓄電池の必要も減らせるとしている。
構想の例として示されたのは、高度650km付近に81基の衛星を集め、互いに光で高速通信しながら一つの計算機のように働かせる形だ。地上の実験では、送受信機1組で片方向800Gbps、双方向で1.6Tbpsの通信を確かめている。
打ち上げの値段しだい
この構想が暮らしに触れるのは、地上の電力の取り合いとの関係だ。AI の計算は大量の電気を使う。宇宙で太陽光から直接まかなえるなら、データセンターをどこに建て、その電気をどこから引くかという地上の制約から、計算の一部を外せる可能性がある。
ただし、Google 自身がその条件をはっきり書いている。打ち上げの費用が今のペースで下がり続け、2030年代半ばに1kgあたり200ドルを切れば、宇宙のデータセンターの費用は、地上の電力費と1kW・1年あたりでおおむね並ぶ水準になりうる、という見立てだ。今はまだその値段にない。
残る課題として、熱を逃がす仕組み、地上との大容量の通信、軌道上で壊れずに動き続ける信頼性の3つを挙げている。放射線については、Trillium 世代の TPU を陽子ビームで試し、最も弱い部品のメモリーでも、遮蔽した状態で5年間に浴びると見込まれる量の約3倍まで異常が出なかったと報告している。
今回の一歩が示した範囲
今回確かめられたのは、軌道上のチップが地上からの指示で起動し、応答を返したところまでだ。どれだけの電力で、どれだけの計算をしたかといった運用の数字は、ピチャイ氏の投稿には示されていない。衛星どうしを光でつないで一緒に計算させる部分も、これから試す段階にある。
次に見るもの
Google は Planet と組み、2027年初めまでに試作衛星2基を打ち上げ、衛星間の光通信を確かめる学習ミッションを計画していた。軌道上での計算の数字と、衛星どうしの通信の結果が Google Research のブログで報告されるかが、構想が次の段に進んだかを見分ける目印になる。
ことば
- TPU — Google が機械学習のために設計した専用のチップ。地上のデータセンターですでに使われており、今回はそれを衛星に載せて宇宙で動かした。
- 太陽同期軌道 — 衛星が毎日ほぼ同じ時刻に同じ地域の上空を通る軌道。昼と夜の境目に沿う型を選ぶと、ほぼ常に太陽光を受けられる。
電気を使う AI の計算が空の上へ移る日が来るとしたら、あなたは自分の暮らしの電気の使い方を、どう見直すだろうか?


