Google が 9 月 24 日、AI の計算に使う自社チップ TPU を来週、SpaceX の相乗り便 Transporter-18 で軌道へ送ると書いた。衛星の開発は地球観測会社の Planet と組んでいる。
狙いは軌道で計算をこなすことではなく、地上の八倍にもなる日光の下で、データセンターで使われている系統のチップが打ち上げと宇宙の環境に耐えるかを見ることにある。「宇宙のデータセンター」という言葉が流れてくる前に、来週ほんとうに上がるものを切り分けておく。
来週上がるのは、壊れ方を測る一機だ
Google 自身の説明はごく控えめだ。この最初の打ち上げは、何が動くかを見て、どこで壊れるかを見つけ、その結果を次の飛行に活かすためのものだと書いている。載るのは Trillium と呼ばれる世代の TPU だ。
測る対象も具体的に挙がっている。打ち上げの際に個々のチップにかかる 50〜100 G の加速度。軌道上の放射線。真空のなかで熱をどう逃がすか。地上の試験装置では再現しきれない条件を、実機で一度通す。
語の範囲は絞っておく。衛星に何個の TPU が載るのか、機体がどれくらいの大きさで何ワットを使うのか、どこから上がるのかは、Google の説明ページには書かれていない。報道にはこれらの数字が出ているが、公式の文書で確かめられるのは「来週」「Transporter-18」「Planet との共同」までだ。
八倍の日光という動機
なぜ軌道なのか。Google は、衛星がほぼ途切れない日光を受けられ、地上の最大八倍の太陽光発電ができると書いている。研究側の記述では、ほぼ連続して発電できることで電池の必要量も減る。
構想されている配置も公開されている。高度およそ 650 キロに 81 機。半径 1 キロのクラスタのなかで、隣り合う衛星の間隔は 100 メートルから 200 メートルのあいだを揺れる。衛星どうしは光でつなぐ。台上の実験では、一組の送受信機で片方向 800 Gbps、往復で合わせて 1.6 Tbps が出ている。ただし実用に必要とされているのは毎秒数十テラビット級で、まだ桁が足りない。
陽子ビームの試験では、まだ壊れなかった
放射線の試験は地上で済んでいる。Trillium v6e の TPU を陽子ビームに当てたところ、放射線の吸収量を表す単位で累積 2 krad(Si) に達したあたりから、高帯域メモリの部分が異常を示しはじめた。これは五年間の運用で想定される被曝量 750 rad(Si) の三倍近くにあたる。積算線量に起因する恒久的な故障は、試験した最大の 15 krad(Si) まで確認されなかった。
数字だけ見れば、すぐに壊れる話ではない。それでも実機を上げるのは、加速器のビームと軌道の放射線が同じものではないからだ。来週の一機が持ち帰るのは、その差の大きさになる。
暮らしの電気に届くまでの距離
費用の見通しも出ている。打ち上げ費用が 2030 年代半ばに 1 キログラムあたり 200 ドルを下回れば、宇宙のデータセンターの費用は、同等の地上データセンターについて報告されているエネルギー費用とおおむね並びうる、というのが Google 側の試算だ。
ここで並ぶのは費用の一項目である。家庭の電気料金がどうなるかは、この試算には含まれていない。研究チーム自身が未解決として挙げているのは、熱の処理、地上との大容量通信、そして軌道上での信頼性の三つで、どれも一機の飛行で片づくものではない。
手元の判断としては、こう置いておけばいい。来週の打ち上げは、家の電力計にも電気代にも触らない。触るとすれば十年単位の先の話で、そこへ進むかどうかの最初の分岐は、2027 年初めに予定されている二機の衛星によるレーザー相互接続の試験で見える。置き場所は Google Research のブログと、blog.google の Project Suncatcher の説明ページだ。光でつながらなければ、81 機の構想はそこで止まる。
ことば
- TPU — Google が AI の計算のために自社で設計したチップ。今回上がるのは Trillium と呼ばれる世代で、地上のデータセンターで動いているものと同じ系統にあたる。
- Transporter-18 — SpaceX が複数の顧客の小型衛星をまとめて運ぶ相乗り便。専用のロケットを仕立てずに軌道へ上がれるため、試験機の打ち上げに使われる。
- rad(Si) — 放射線がシリコンにどれだけ吸収されたかを表す単位。試験では 2 krad で記憶素子に異常が出たが、五年間の想定被曝量はその半分以下の 750 rad にとどまる。
屋根に載せる太陽光パネルと、高度 650 キロで八倍の日を浴びる板は、同じ物理の上に立っている。違うのは、間に何があるかだけだ。計算を日の当たる場所へ運ぶという発想を、あなたは自分の暮らしのどこに引き寄せて読むだろうか?