Google DeepMind は10月14日、新しい AI モデル Gemini 4 Argon が、量子計算や核融合、酵素の設計といった研究の現場で成果を出し始めていると公表した。同社のモデル紹介ページには、Google の研究者や外部の研究者と進めた具体的な事例が並んでいる。
Argon は前日、Gemini アプリで有料プランの契約者に提供が始まったばかりだ。今回はその使い道のうち、研究の相棒としての顔が示された。事例の中身と、まだ言えないことを分けて見ていく。
量子計算: 誤りを直す仕組みを速く、回路を軽く
量子コンピューターは計算の途中で誤りが生じやすく、それを読み取って直す仕組み (誤り訂正の復号器) が、機械の速さに追いつく必要がある。DeepMind によると、Argon は同社の機械学習による復号器 AlphaQubit の社内版を、一つの最適化されたプログラムに書き直し、処理の速さをほぼ2倍にした。
もう一つは、量子の計算で使う部品の軽量化だ。量子シミュレーションの部品の一つ (arcsin) について、Argon が書き、数学的な証明の道具 Lean で正しさを確かめた実装は、公表されている従来の方式に比べて、必要な量子ビットと時間の負担を100分の1以下にしたという。
核融合: 1967年からの予想に反例
核融合炉の方式の一つ、ステラレーターは、ねじれた複雑な磁場でプラズマを閉じ込める。その磁場について1967年から、厳密な数式の解は見つからないとする予想 (グラッドの予想) があったが、近年、メリーランド大学のマット・ランドレマン教授らが反例を見つけていた。
今回、Google のチームはランドレマン教授と組み、より広い種類の反例を見つけたという。これらの解は、ステラレーターの設計に使うシミュレーションの道具が正しく動くかを試す、確かな基準になるとしている。
酵素の設計: 数時間で5つの候補
酵素づくりの事例もある。対象は、分子の特定の結合を切るセリンエステラーゼという酵素で、リサイクルや医薬品、バイオ燃料、洗剤の製造に広く使われる。研究者は、結合が切れると紫外線の下で光る試験用の分子を目標に、Argon と酵素を設計した。
Argon は数時間のうちに必要なデータを集め、モデルを調整し、生化学の知識にもとづく絞り込みの条件を見つけて、新しい設計を5つにまとめた。その後の実験で、5つすべてがしっかりと働くことが確かめられたという。ほかに、希少疾患の遺伝情報の解析で、通常のソフトが長年見逃していた染色体の組み換えを見つけた事例も挙げている。
まだ言えないこと
いずれも Google 自身が公表した事例で、論文として外部の審査を経たかどうかは、紹介ページからは分からない。核融合の反例は、核融合炉が近づいたことを意味するのではなく、設計の道具を試す基準が増えたという話だ。酵素も、実験室で働くことが確かめられた段階で、製品になるまでには別の長い道のりがある。
それでも、研究の現場で AI が「文献を探す道具」から「仮説を立てて試し、証明まで手伝う相手」に移りつつあることは、事例の並び方から読み取れる。同社は研究者向けに、Antigravity の上位の利用枠を無料で申し込める窓口も設けている。
確認できる次の点
次に見るのは、Google DeepMind の Gemini のモデル紹介ページと、各事例の論文や詳しい報告が出るかどうかだ。核融合の反例はランドレマン教授との共同研究で、論文の公開先 (arXiv など) に出れば、外部の研究者が中身を確かめられるようになる。
ことば
- 誤り訂正 (量子) — 量子コンピューターの計算中に生じる誤りを、周りの情報から読み取って直す仕組み。誤りを直す処理が計算の速さに追いつくことが、実用化の条件の一つになっている。
- ステラレーター — ねじれた磁場の籠でプラズマを閉じ込める核融合炉の方式。安定して運転しやすい一方、磁場の形の設計がとても難しく、計算の道具が欠かせない。
AI が仮説を立てて試すところまで手伝う時代に、あなたが自分の手で確かめたい問いは何だろうか?