Google DeepMind の研究者は10月15日、AI モデル Gemini 4 Argon で動く4体のエージェントが、Minecraft の最終ボスであるエンダードラゴンを27時間14分で倒したとする論文を公開した。役割の分担もゲームの攻略法も人は渡さず、4体はゲーム内のチャットで仕事を分け、2,783本のプログラムを自分で書いた。
ゲームの話に見えて、問われているのは、AI 同士がチームで1日以上働くとき、人の仕事がどこに残るかだ。論文が書いた条件と限界を合わせて読むと、その手がかりが見えてくる。
4体がしたこと、研究者がしなかったこと
論文 (著者は Maxence Faldor 氏ら3人) によれば、舞台はランダムに生成した新しい世界で、難易度は「イージー」。4体はそれぞれ Mineflayer というオープンソースのライブラリを通じてプレイヤーを1人ずつ操作し、画面ではなくコードとテキストだけで世界とやりとりした。
研究者が用意したのは、4体と見守り役のエージェント、難易度、Mineflayer と移動用の拡張機能、そして1段落の目標と一般的な指示だけだ。攻略の手順や練習課題、人が書いた道具は渡していない。ダッシュボードで様子を見て止めることもできたが、介入する理由はなかったという。
役割はすぐに決まった。1体が食料やベッドを探し、1体がダイヤモンドを掘り、1体が鉄を精錬して道具を作り、1体がネザー (地下世界) への門を準備した。4体は共有のメモにチェストや門の座標、危険な場所、道具の癖を書き込んだ。ある修正を組み込んだ作業用の関数は、4体が書いた655本のプログラムで使い回されている。
失敗の数も、成果と同じだけ書かれている
論文は成功の数字と同じ細かさで失敗も記録している。4体が倒された回数は605回で、多くは敵によるものだった。書いたプログラムの22%はエラーで止まり、最後の戦いだけで14時間近くかかった。ゲームのサーバーは6回落ちている。
条件も狭い。Mineflayer は周囲のブロックや生き物を正確に教えるので、人の目には見えない岩の向こうやドラゴンの状態まで分かる。画面とキーボードで遊ぶほうが「はるかに難しい」と著者自身が書く。イージーでは敵の攻撃が弱く、空腹で倒れることもない。しかも記録は1回の実行、それも最初に試した回で、同じ設定でどれだけ安定して成功するかはまだ分からない。
費用の試算もある。プレイヤー4体ぶんで導入価格なら約520ドル、通常価格なら約1,040ドル。見守り役を含む全体では約810ドル (通常価格で約1,620ドル) だ。いずれも公開価格から計算した見積もりだという。
AI がチームで働くとき、人は何を決めるか
著者は、Minecraft で要る力、つまりチームで役割を分ける、失敗から立て直す、1日以上同じ目標を追い続けるといった力は、現実のソフトウェア開発や企業の仕事でも AI に求められるものだと書く。見える形で AI のチームを観察することは、現実の仕事を任せる前にその性質を知る一つの方法だという。
手がかりになるのは、研究者が実際にやったことの短さだ。目標を1段落で書き、条件を選び、止めるボタンを持って見守る。手順は書いていない。AI 同士が仕事を分けるようになると、人の役目は進め方を指示することから、目標と条件と止めどきを決めることへ寄っていく。
ただし今回は、敵の弱い世界で、正確な情報が手に入り、何度倒れてもやり直せる環境での話だ。送信や支払いのような取り消せない操作が混じる現実の仕事では、605回の失敗はそのまま許されない。
次に確かめたいのは、同じ設定での2回目以降の結果と、難易度を上げた条件での再現だ。論文は arXiv (2610.22319) で公開されており、版が更新されればそこに載る。
ことば
- Mineflayer — Minecraft のプレイヤーをプログラムから操作するためのオープンソースのライブラリ。周囲の状況をデータで返すため、AI は画面を見ずにコードだけで動ける。今回の結果を読むときの前提条件でもある。
- エンダードラゴン — Minecraft の最終ボス。倒すには資源集め、道具作り、地下世界の探索、要塞の発見といった長い工程を順にこなす必要があり、AI が長い計画を保てるかの目安として使われてきた。
自分の仕事を AI のチームに渡すとしたら、あなたは目標の書き方と止めどきの決め方の、どちらを先に考えるだろうか?
