Anthropic は10月18日、自社株の一部を新設の「Anthropic Public Benefit Fund」に充てると発表した。株主の承認を条件に、まず株式の5%を入れ、企業価値が設定した基準から50%上がるごとに、取締役会の判断で2%ずつ上積みできる。
AI が生む富のうち、作った会社の取り分の一部を、働き手を含む会社の外へ回す器ができることになる。会社が大きくなるほど器も大きくなる設計で、AI で仕事が揺らぐ側にとっては、その器がいつ、誰に、どう開くのかが関心事になる。
第一報は「Anthropic、株式の約20%を公益基金に配分する新制度を決定」で伝えた。ここでは数字の中身と、まだ決まっていないことを見ていく。
基金は5%から、約2割は3つの約束の合算
約20%は、基金に別の2つの約束を足した数字だ。Anthropic の説明では、次の3つを合わせると、株式のおよそ2割が公益に充てられる。
- 共同創業者の誓約 — 創業時に、それぞれの持ち株の80%を寄付すると約束している
- 従業員の株式寄付マッチング — 従業員が寄付を約束した株式に、会社が同じだけ上乗せする制度。従業員の約半数が参加している
- 今回の基金 — 株式の5%
企業価値の節目で上積みされる分は、この約2割の外に足される。基金単体で見れば5%が出発点で、増えるかどうかは会社の成長しだいだ。
経営陣の株式報酬と同じ段階式を公益に
企業価値が上がるほど取り分が増える設計には下敷きがある。Anthropic は発表で、テック企業が経営陣に段階的に増える株式報酬を出すのは一般的なやり方だと書き、その株式を公益に向けるとしている。
Anthropic は、公益への貢献を定款に掲げる営利企業 (パブリック・ベネフィット・コーポレーション) だ。安全性の研究や、非営利団体・研究機関向けの Claude の割引などは、これまで社内の事業として続けてきた。基金はそれとは別に、社外の取り組みに大きな規模でお金を出すための器になる。
形は、非営利の財団 (米国の 501(c)(3) 団体など) ではなく、Anthropic が全額を持つ LLC (合同会社) を選んだ。寄付の形を切り替えやすくするためだという。基金が持つ同社株は、国内外を問わずロビー活動や政治献金には使わないと明記している。
研究助成2億ドルとの違いは、人に直接配れること
発表は使い道の例として、伝統的な非営利団体への大口の寄付と、特定の人々への直接の分配を挙げた。分野の例に挙がったのは労働市場への影響だ。AI は大きな経済的価値を生む一方で、多くの働き手を不安定にしうると書いている。
この分野で Anthropic はすでに2億ドルの研究基金を持つ。7月22日に公表した研究課題では、助成の対象は大学や研究機関、非営利団体で、1件あたり主に500万〜3000万ドル。所得支援の見直しや、AI による成長に働き手が持ち分を持つ方法などを研究テーマに挙げている。
こちらは研究にお金を出す仕組みで、個人は所属する機関を通じてしか申し込めない。新しい基金は、研究で見えてきた手立てを、実際に人へ届ける側に回れる可能性がある。ただし、現時点でそれは発表に書かれた例にとどまる。
まだ決まっていないこと
分かっていないことのほうが、まだ多い。
- 株主の承認 — 5%の拠出そのものが、承認を条件にしている
- 統治 — 誰が配分を決めるのか、基金の統治のしくみは示されていない
- 基準と上限 — 上積みの起点になる企業価値の基準は公表されておらず、上積みに上限があるかも書かれていない
- お金になる時期 — 基金が持つのは非上場企業の株式だ。どの時点で、どれだけを現金にして配れるのかは、発表からは読めない
誰がどの条件で受け取れるのかも、まだ分からない。今の時点で、個人が応募したり、受け取りに備えて何かを準備したりできる段階にはない。
次に確かめられるのは、Anthropic が今後数か月のうちに出すとしている基金の統治と、評価額の節目についての説明だ。あわせて、使命に照らした進み具合をまとめる公益報告 (public benefit report) を公表するとしており、そこで初めて、器の中身と開き方が見えてくる。
ことば
- パブリック・ベネフィット・コーポレーション — 利益を上げながら、定款に掲げた公益にも責任を負う米国の会社形態。株主の利益だけでなく、公益とのつり合いを取ることが経営陣に求められる。
- LLC (合同会社) — 出資者が経営のルールを柔軟に決められる会社の形。慈善団体の形を取らないことで、寄付・分配・事業への出資を一つの器で切り替えられる。
- 株式寄付マッチング — 従業員が寄付すると約束した株式に、会社が同じ量を上乗せする制度。Anthropic では従業員の約半数が使っている。
AI を作る会社が、成長の一部を会社の外へ回すと約束したとき、あなたはその約束が守られているかを、何を見て確かめるだろうか?

