OpenAI の創業メンバーで、テスラの AI 部門を率いた研究者アンドレイ・カルパシー氏が10月12日未明 (日本時間)、LLM (大規模言語モデル) の能力についての共通理解の差は「広がっている」と X に投稿した。世界の人々をおおよそ4つの段に分け、AI で仕事の進み方が変わったのを自分の手で確かめている人は約0.2%にとどまる、という本人の概算を添えている。
同じ AI について話していても、どの段から見ているかで景色が違う。今日の AI をどう評価するかは、自分がいる段に左右される。
4月の「二つの集団」が漏斗になった
カルパシー氏は今回、4月9日の自身の投稿を引用している。4月の時点では、理解の差を二つの集団の話として書いた。一方は、昨年ごろに ChatGPT の無料版を試し、そこで見た失敗やとぼけた応答で AI を判断している人たち。もう一方は、最先端のエージェント型モデルに料金を払い、プログラミングや数学、研究の仕事で使っている人たちだ。両者の話はかみ合っていない、というのが4月の診断だった。
10月の投稿は、この見立てを更新した。二つの集団のすれ違いというより、鋭くすぼまる漏斗に近い、と。
カルパシー氏が描いた4つの段
本人が「ざっくりした計算 (napkin math)」と断ったうえで示した段は次のとおり。統計調査ではなく、本人の見積もりだ。
- 約60億人 (人口の約75%): LLM にほとんど触れたことがない
- 約10億〜20億人 (約20%): ChatGPT のような無料版を時々使う。検索の延長や文章の手伝いとして扱う層で、数学やコード以外の専門職の多くもここに入る。経営者は理屈では分かっていても、体験としては又聞きに近いという
- 約2,000万人 (約0.2%): 数学やコードの分野で、最先端の LLM を仕事で使う。かつて数週間から数か月かかった大きな案件が、エージェントへの指示で片づくのを目の前で見ている
- 約5,000人: AI 企業の内部で、外に出る前の最先端システムに触れている。数千のエージェントが数週間かけて巨大なソフトウェア案件で協働する姿について、外の世界が見たのは予告編だと書いた
カルパシー氏自身も、1年足らず前まではコードを1文字ずつ手で打っていたと振り返っている。上の段の景色は、ごく最近になって現れたものだ。
差を生む3つの要因と、個人が動かせる1つ
カルパシー氏は漏斗の原因を3つ挙げた。
1つ目は、取り組む問題の大きさと時間軸。1段落で答えが済む質問では、システムの力はほとんど試されない。本当に気にかけている大きく難しい問題の蓄えが要る、という。
2つ目は、能力のでこぼこ。能力が突出するのは、デジタルで、正解を検証でき、経済的な価値が大きい分野だ。正誤を判定できる課題で鍛える強化学習が能力の源で、どの課題で鍛えるかの配分が収益の見込みで決まるためだと説明している。
3つ目はアクセス。無料版、有料版、社内版の差だ。
2つ目と3つ目は、個人がどうにかできる話ではない。4月の投稿でカルパシー氏は、月200ドルを払って最先端モデルを使っても、検索・文章・相談といったありふれた用途は、能力の伸びがもっとも目立つ領域ではないとも書いていた。料金を上げれば上の段に移れるわけでもない。
個人の側で動かせるのは、1つ目の「何を任せるか」だけだ。
自分の段を確かめる
カルパシー氏は、技術職ではない友人が AI にあまり使い道がないと言うのを、もっともだと書いている。上の段へ移ることが、誰にとっても正解というわけではない。大きな仕事を任せるには、その仕事を言葉で切り分ける時間と、AI の出した結果を確かめる手間がかかる。確かめる力が自分に無い分野では、任せた結果の良し悪しも分からない。
それでも、自分がどの段から AI を評価しているかは知っておいてよい。次に確かめられるのは、OpenAI や Anthropic が新しいモデルを出したときの各社の料金ページだ。無料版に何が降りてきて、何が有料に残ったか。3つ目の要因、アクセスの段差が動いたかどうかがそこで分かる。
ことば
- LLM — 大規模言語モデル。大量の文章から学び、文章を読み書きする AI の中核技術で、ChatGPT や Claude の土台にある。今回の投稿でいう「能力」はこの LLM の力を指す。
- エージェント — 指示を受けて、調べる・書く・実行するといった複数の手順を自分で進める AI の使い方。1問1答のチャットと違い長い仕事を任せられる点が、漏斗の上の段を分けている。
- 強化学習 — 試した結果に点数を付け、よい振る舞いを伸ばす学習法。コードのテストのように正誤を自動で判定できる分野ほど鍛えやすく、能力のでこぼこを生む一因になる。
最後に AI に頼んだのは、1段落で答えが済む質問だっただろうか、それとも何週間も抱えていた仕事だっただろうか?