Thinking Machines は11月5日、第2世代のモデル Inkling 2 Small を発表した。総パラメータは 594B (5,940 億個) で、重みは来週 Apache 2.0 で公開する予定だとしている。
Thinking Machines「Inkling 2 Small」(2026年11月5日・公開予定・弱点・デモ)Thinking Machines Lab
前世代より大きく伸びた一方で、家庭の PC にそのまま載る大きさではなく、Artificial Analysis の計測では1タスクの費用も約 5.9 倍になった。公開モデルと聞いて手元で動かす姿を思い浮かべるなら、先に確かめておきたい数字がある。
今はまだ、借りて使うモデル
発表の時点で使えるのは、同社のサービス Tinker の上だけだ。重みは閉じたままで、外部の安全性試験と、攻撃役を立てて弱点を探すレッドチーミングが終わったあと、来週の公開を目指すという書き方になっている。ほかのプラットフォームへの提供は数週間以内としている。
11月7日に Hugging Face の同社ページを確認した時点で、Inkling 2 Small の項目はまだ並んでいない。前世代の Inkling-Small は Apache 2.0 で公開済みなので、予定どおりなら同じページに載ることになる。
594B はどれくらいの置き場所を取るのか
Inkling 2 Small は Mixture-of-Experts という作りで、384 の専門家のうち、トークン (AI が文章を処理する単位) ごとに 8 つだけを使う。動くのは 17B だが、使う専門家はトークンごとに替わるので、基本的には全体を手元に置いておくことになる。
必要なメモリを同社は発表文に書いていない。手がかりは前世代のファイルだ。総 276B の Inkling-Small は、Hugging Face 上で 4 ビットの NVFP4 版が約 171GB、16 ビット版が約 532GB ある。
同じ比率で 594B に伸ばすと、約 370GB と約 1.1TB になる。音声機能の有無などで単純な比例にはならないので、あくまで編集部の試算だ。それでも、メモリが数十 GB のふつうの PC に載る量からは遠い。
小さいモデルに期待する道は残る。同社は Inkling 2 Small を大きさ違いのモデルの「はしご」の一段と呼び、ほかの段も近く見せるとしている。自宅で動かす話は、その段の大きさを見てからでも遅くない。
単価は上がっていないのに、費用は増えた
Artificial Analysis の総合指数で、Inkling 2 Small は 31 点、前世代の Inkling Small は 13 点だった。同じ試験で数字を並べると、伸びの代わりに増えたものが見える。
- 1タスクの費用: 0.20 ドル → 1.18 ドル (約 5.9 倍)
- 1タスクの時間: 4.8 分 → 18.5 分
- 試験全体の出力トークン: 7,160 万 → 1 億 5,400 万
- 100 万トークンの単価: 入力 0.30 ドルで同じ、出力は 1.20 ドル → 1.00 ドル
単価表だけを見れば安くなっている。請求を増やしたのは、1つの課題にかける量と時間のほうだ。AI に長い作業を任せるつもりなら、単価でなく1タスクあたりで見積もらないと予算が外れる。
これは重い評価課題の数字で、日常の質問1回の値段ではない。The Decoder が伝える同じ計測では Gemini 3.8 Flash が 7.77 ドル、Claude Sonnet 5.5 が 10.02 ドルなので、他社と比べれば今も安い側にいる。
伸びと引き換えに残った弱点
同社自身が挙げている弱点もある。
- 音声入力は非対応になった (前世代は対応・画像は対応)
- チャットの体験は最適化が足りない。情報の整理や見せ方が劣り、メンタルヘルスなどの質問に過剰に反応することがある
- 簡潔に伝えるのが得意でなく、作業手順 (スキル) を多く抱えるコードベースでは最適な道具を選ばないことがある
- AI を意図どおりに振る舞わせるアライメントの評価で、GPT-6.1 Sol のような閉じたモデルにまだ及ばない
ハルシネーション (事実と違う答え) の率は 61% から 27% に下がったが、The Decoder によれば回答した割合も 77% から 53% に下がっており、下げ幅の多くは答えなくなった分だ。
手元を変えるのは、追加学習の値段かもしれない
Inkling のシリーズは、追加学習の土台として作られている。同社が見せたデモでは、Inkling 2 Small が自分で手順を組み、小さなモデル Qwen3.5-4B に天気や Wikipedia の閲覧数を予測させる学習を 4.5 時間で回した。Tinker での費用は 426 ドルで、予測の点数は 2 倍を超えたという。
GPU を買わずに、自分の用途に寄せたモデルを作れる額ではある。ただし同社自身のデモで、課題と予算も用意された上での結果だ。作業記録には評価の費用が膨らむ場面も残っていて、何で成功を測るかを決める手間は消えていない。
次に見るのは、11月9日の週の Hugging Face の thinkingmachines のページだ。公開が予定どおりか、ファイルの大きさがいくつか。そこで自宅で動かす話の現実味が決まる。
ことば
- Mixture-of-Experts — モデルの中に多数の専門家を持ち、処理ごとに一部だけを使う作り。計算量を抑えられるので大きなモデルで採用が進むが、全体を置く場所は要る。
- 重み — 学習で得られた数値の集まりで、モデルの実体にあたる。公開されれば、自分のサーバーや借りた GPU で動かしたり、追加学習に使ったりできるようになる。
- Apache 2.0 — 商用利用や改変を広く認めるライセンス。この条件で公開されれば、追加学習したモデルを自分のサービスに組み込む道が開く。
あなたが自分用に直したい作業は、426 ドルをかける価値があるものだろうか?
参照
Thinking Machines「Inkling 2 Small」(2026年11月5日・公開予定・弱点・デモ)Thinking Machines Lab
Inkling 2 Small モデルカード (384 の専門家の構成)Thinking Machines LabArtificial Analysis「Inkling 2 Small」(指数・1タスクの費用と時間)artificialanalysis.ai
Artificial Analysis「Inkling Small」(前世代の同じ計測)artificialanalysis.ai
Hugging Face「Inkling-Small-NVFP4」(前世代の 4 ビット版のファイル)huggingface.co
Hugging Face「Inkling-Small」(前世代の 16 ビット版とライセンス)huggingface.co
The Decoder の報道 (2026年11月6日・他社比較と回答率)The Decoder