人型ロボット Atlas や四足歩行の Spot で知られる Boston Dynamics は 10 月 6 日、Amazon で Alexa の開発を率いた Rohit Prasad 氏を最高経営責任者 (CEO) に迎えると発表した。就任は 10 月 7 日付だ。
声で話しかける AI を何億もの家庭に届けた人物が、体を持つ機械の会社の舵を取る。会社が掲げるのは「AI とロボットの統合を速め、現実の現場での Physical AI (物理的な仕事をする AI) を広げる」ことだ。
Alexa と Nova を作った経歴
Boston Dynamics の発表によると、Prasad 氏は Amazon に 12 年在籍し、Alexa と汎用人工知能 (AGI) の責任者を務めた。Alexa をごく初期から育て、世界で数億の家庭が使う大規模な消費者向け AI サービスにしたと紹介されている。Amazon の基盤モデル群 Nova を立ち上げたのも同氏だ。その前は Raytheon BBN Technologies で 14 年近く、機械学習の研究を率いた。
Prasad 氏は「Boston Dynamics は、世界水準のロボット技術によって Physical AI を前に進める独自の位置にいる」と述べた。親会社である現代自動車グループの副会長で、Boston Dynamics の取締役会議長を務める Jaehoon Chang 氏は、同社のロボット技術、AI を世界規模の製品にしてきた Prasad 氏の実績、そしてグループの製造・物流・モビリティの力が「強い土台になる」とコメントしている。
発表が向いている先は、まだ産業の現場
発表文が挙げる重点は、AI とロボットの統合、Physical AI の商用化、そして産業や商業の環境で働く機械を広げることだ。安全性・生産性・業務の効率を上げることが目的として書かれている。
いまの製品構成もそれに沿っている。
- Spot: 設備の点検に使う四足歩行ロボット
- Stretch: 倉庫で箱を運ぶ物流ロボット
- Atlas: 開発中の電動の人型ロボット
家庭という言葉が発表文に出てくるのは、Prasad 氏の Alexa での実績を紹介するくだりだけだ。Boston Dynamics のロボットを家に迎える計画が示されたわけではない。Atlas については、10 月 1 日に器用な作業向けの 13 自由度の新しい手を公開したばかりだが、量産や現場への導入の時期は今回も示されていない。
AI の製品化を知る人が、ロボットに持ち込むもの
それでもこの人事には読みどころがある。Alexa は、技術としての音声認識を、毎日使う道具に変えた例だ。話しかけ方を覚えなくても使える、壊れても家の人が困らない、価格が手の届く範囲にある。研究の成果を暮らしの中で回る製品にするには、性能とは別の条件がいくつも要る。
ロボットにも同じ壁がある。研究室でできる動きと、毎日同じ品質で働く機械のあいだには、費用・安全・保守の距離が残る。Boston Dynamics は長く動画で驚かせる会社だった。その技術を、何万台も現場で回る製品にできるかが、この人事で問われることになる。
家庭にロボットが届くのは、その先の話だ。工場や倉庫で安く安全に回る機械が先にできて、初めて家に入る価格と信頼が見えてくる。
次に確かめること
確認できる次の一点は、Prasad 氏の就任後に Boston Dynamics のニュースページで出る最初の製品発表だ。Atlas の量産や、現代自動車グループの工場への導入時期が具体的な日付で語られるかを見ておきたい。
ことば
- Physical AI — 画面の中で文章や画像を作る AI ではなく、ロボットや機械の体を通じて現実の物を動かす AI。現場の環境は一つとして同じでないため、学習と安全確認の両方が難しく、各社が商用化を競っている。
- 基盤モデル — 大量のデータで事前に学習させ、さまざまな用途に転用できる大きな AI モデル。Amazon の Nova はこの一群にあたる。
声の AI が家に入ってきたときのように、体を持つ機械が暮らしに入ってくるとしたら、あなたは最初にどんな条件を確かめたいだろうか?
