米国の人型ロボット企業 Agility Robotics は10月13日、Nasdaq 上場に向けた手続きが一段進んだと発表した。特別買収目的会社 (SPAC) の Churchill Capital Corp XI との合併について、米証券取引委員会 (SEC) が登録届出書 (Form S-4) の効力発生を宣言した。
集める資金は6億2000万ドルを超える見込みで、同社はその多くを次世代機 Digit 5 の量産と、工場や倉庫への配備に充てるとしている。人と同じ場所で二足で歩いて働くロボットが、いつ、どこまで暮らしの近くに来るのか。発表の数字から、その現在地を見ていく。
11月2日の株主総会と、AGLT という新しい名前
手続きの流れは次のとおりだ。
- 11月2日: Churchill XI が臨時株主総会を開き、合併の承認を諮る。議決権を持つのは9月14日時点の株主
- 11月中: 合併が完了する見込み。新しい会社は Nasdaq で「AGLT」の銘柄コードで取引される予定
- 資金: Churchill XI が信託口座に持つ約4億2400万ドル (株主が払い戻しを求めなかった場合の額) と、台湾の鴻海精密工業 (Foxconn) が主導する約2億ドルの株式引き受け
SEC の効力発生は、届け出た書類で株主に判断を求めてよいという段階を意味する。合併の中身を SEC が良しとしたという意味ではなく、成否は11月2日の株主総会に委ねられている。株主が払い戻しを求めれば、信託口座から入る額は4億2400万ドルより小さくなる。
Digit 5 は「人のそばで働く」前提の設計
Agility の発表によると、Digit はこれまでの世代で、実際の現場で6万5000時間以上動いてきた。物流大手 GXO、独部品大手シェフラー、トヨタのカナダの工場が、名前の出ている顧客だ。トヨタとは試験導入のあと、ロボットを月額で使う契約 (RaaS) を結んでいる。
次の Digit 5 について、同社は「協調的に安全」な設計だとしている。人が行き来する場所で、柵で区切らずに一緒に働くことを前提にした考え方だ。持ち上げられる重さ、電池の持ち、手の器用さも上げるという。
ただし、Digit 5 はまだ現場に出ていない。早期に使える顧客への提供は2027年初めが目標で、受注済みとされる3億ドル超も、契約上の節目や仕様を満たすことが条件になっている。
量産の受け皿は、米オレゴン州セーラムの自社工場 RoboFab だ。年間最大1万台を作れる設計だと同社は説明している。
9拠点から25拠点へ、の距離
暮らしの側から見ると、規模はまだ小さい。
- 決まっている配備先は、いま9拠点。2027年末までに最大25拠点へ増やすのが目標
- 導入を検討している見込み客は30社超で、2027年末に約100社を目指す
- 提供は企業向けの月額契約が中心で、家庭や小さな店が買える製品ではない
- 年1万台という工場の能力は「作れる上限」で、実際に作る台数ではない
それでも、資金の使い道がはっきり量産と配備に向いている点は、研究段階のデモとは性格が違う。10月4日にこのサイトで取り上げた、学習データにない会場での約12時間の自律デモは、まだ研究だった。今回は、その手前の商用の仕事を、台数で増やすための資金だ。
倉庫で箱を運ぶ仕事が人型ロボットに移ると、通販の荷物が届くまでの裏側が変わる。人の仕事は、ロボットに任せる作業の切り出しと、うまくいかなかったときの手当てに寄っていく。それが自分の職場や近所の物流拠点で起きるのは、早くても2027年以降の話になる。
次に確かめるのは、11月2日の Churchill XI の臨時株主総会の結果と、合併完了後に Agility Robotics の公式サイトのニュース欄で出る Digit 5 の早期提供の知らせだ。配備先の数が9からどこまで伸びたかも、そこで分かる。
ことば
- SPAC (特別買収目的会社) — 先に上場して資金を集め、あとから未上場の会社と合併することで、その会社を上場させる仕組みの会社。通常の新規上場より手続きが短い一方、株主が払い戻しを求めると集まる資金が減る。
- RaaS (Robot-as-a-Service) — ロボットを買い取らず、月額などの利用料で使う契約。導入する側は初期費用を抑えられ、保守や更新は提供する側が受け持つことが多い。
人のそばで働くロボットが来たとき、あなたの職場で最初に任せたい仕事と、最後まで人に残したい仕事は、それぞれ何だろうか?
