小説:「土曜の夜と日曜日の夕方」〜前編〜

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翔太が幼稚園に入園してしばらく経ち、陽子にはママ友ができた。そして徐々に週末も家族ぐるみで過ごすほどの仲になっていった。
陽子や翔太もすごく楽しそうで、俺の本心とは裏腹にほとんどの週末をそんなママ友家族と過ごすようになっていった。
翔太が小学校に入学した頃、俺はいつも午前0時をまわる帰宅が当たり前になっていた。
そんなある夜、「パパ、ちょっとお願いがあるんだけど……」と陽子が言いづらそうに苦笑いしながら聞いてきた。
「シュウちゃんママと土曜日の夜、カラオケに行ってもいい?」
俺は、普段からなかなか子供たちの面倒もみられてなかったし、陽子の話し相手にもなってやれていなかった。そんな自分も後ろめたかったので了承した。
陽子とシュウちゃんのママは、3月第二土曜日の夜、子供たちと俺を寝かしつけた22時頃から夜の街に繰り出していった。
日曜日の朝5時。
あと一時間かそこらで陽が昇る前を見計らって陽子が帰ってきた。俺は気づかない振りをしてそのまま布団をかぶった。
「おはよう」といつもと変わらない調子で陽子と子供たちに挨拶をして、ダイニングに入っていったのは、8時過ぎだった。
「昨日は、楽しかったかい?」と俺は、新聞を広げながらさりげなく陽子に聞いてみた。子供たちは、日曜日の朝は、お決まりのテレビ「仮面ライダー」に夢中になっていた。
「すごく楽しかったわ、また行ってもいい?」と聞いてきた。
「よかったね、いつも頑張ってくれているし、シュウちゃん家のパパもOKだったら行ってくればいいよ」と言った。
なんせ、シュウちゃん家のパパは、うちとは比べ物にならないくらいのマイホームパパで今回の外出もよく認めてくれたなと思っていたからだ。

すぐに二週間が経った。
今夜も陽子は、シュウちゃんママと二度目のカラオケに行くことになった。
最初のカラオケ以降、いつも陽子はケータイのメールが気になるらしく、俺がそばにいる時もメールがくる度に、そそくさと俺から離れてメールの返信をしていた。
そして、その日もまた日曜日の朝5時に帰ってきた。
毎週土曜のママ友との夜遊びも、月を追うごとにエスカレートしていった。
さすがに度が過ぎると思い、それとなく陽子に言ってみると「あなたも子供たちとなかなか触れ合う時間が無いし、私も毎日ストレスが溜まるのよ」と語気を強めて言い返してきた。
「せめて、月2回くらいにしてもらえないか」とお願い口調で陽子に言ってみると、「わかったわよ」と、トゲのある言い方で返事が帰ってきた。
それから2カ月が経ち、陽子とママ友の夜遊びは、2週に1度のペースになり落ち着いていったかのようにみえた。
ある日、俺のケータイに陽子からのメールが届いた。
「今度、平日のお昼とか一緒にランチできませんか?」
俺宛てのメールでないことは確かだった。
メールが間違って送られてきたことを返信したが、陽子からのメールには、「ゴメン! 最近仲良くなったママ友にメールを送ろうと思って間違っちゃった」とあった。
腑に落ちる内容ではあったが、心のどこかに疑いの気持ちが芽生えていた。

梅雨明けも近づいてきた7月第二日曜日。
久しぶりに家族でショッピングに出かけることにした。
陽子が土曜日の夜に出かけるようになってから、俺に対する態度が徐々に冷たくなっていった。
たわいもないことで陽子に話しかけても、素っ気ない感じで返事がかえってきたり、怒った口調で答えたり確実に俺という存在が凄くめんどくさいものに感じている態度になっていた。
そんな久しぶりの日曜日の外出で俺は、小さな決心をした。
まだ、うちのクルマにはカーナビが付いていなかった。初めての場所に行く時は、必ず助手席で陽子が地図を見ながらナビをしてくれた。
この日も、子供たちも楽しめる吾妻高原スカイランドに向かおうと思いクルマを走らせていた。
福島市までは、いつも走りなれた道だったので特に陽子のナビがなくても大丈夫だったが、市街地を抜けたあたりから道がわからなくなっていた。
以前なら、進んでナビをしてくれていたのだが、この日の陽子は、朝から不機嫌そうな態度でクルマに乗ってからもだんまりを決めこんでいた。
そんな陽子には、ナビをお願いしづらかったので、そのまま標識と案内看板を頼りに進んでいった。

途中までは合っていたと思うが、明らかに間違っていると気づいた時には、お昼の12時もまわり子供たちも後部座席でぐずり出していた。
「まだ着かないの? 本当に方向音痴なんだから」陽子は冷たい言葉を俺に浴びせかけた。
付き合い出してから、そんな言い方をしたことは一度もなかった。
あきらかに今日のお出かけ自体したくなかったというような態度でケータイの画面にずっと集中して誰かとメールをしているようだった。
俺は、そのあたりを歩いている人や商店に入って道を聞きながら、やっと目的地に到着することができた。既に午後2時に近かった。
「ホント、パパって最低だよね」陽子は、子供たちに向かって明らかに俺に聞こえるように嫌みを吐いた。
陽子が、ママ友と夜遊びするようになってから俺は寂しかった。もっと上手く陽子と接することが出来なかったのかとずっと考えていたが、どうすることもできなかった。この日は、もう思い出したくもない日曜日となっていた。
「ちょっと、俺も遊んでみよっかな……」高原をみんなから少し離れて歩き、独りごちた。