小説:「土曜の夜と日曜日の夕方」〜前編〜

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「課長、D医院さまからお電話です」と部下の飯島さんから内線がまわってきた。俺は、倉田誠、35歳。南相馬市のS製薬に勤務している。東京の三流大学を卒業し、生まれ故郷である、この南相馬市で就職した。
特に大学生活ではサークル活動も積極的に行なわず、バイトに明け暮れる日々だった。バブルが崩壊し、失われた十年と言われる不況真っ只中で、何に対しても消極的な学生生活を送っていた。このままじゃ卒業してもバイトを続けているかもしれないだろうなと、ぼんやり思っていた。
しかし、そんな大学四年の夏、中学の同窓会があると実家から連絡があった。
しばらく実家にも帰っていないし、帰省がてら同窓会に参加してみようと思った。
南相馬のことは好きだったが、東京での生活が新鮮で、誰からも指図を受けない解放的な一人暮らしの毎日がすごく快適だった。親もあまりうるさくなかったし、気がつけば成人式以来の帰省になった。
同窓会は、意外にも出席率が良かった。みんな胸の中にあるこれからの不安を同郷で、同じ世代同士で共有し、何か答えを見つけに集まったのではないかと思った。
「あいつ、沼田じゃねーか? なんか綺麗になったな」と小学校から仲の良かった太田が言った。成人式でも会ったはずなのに、この二年足らずで本当に綺麗になったと思った。それが、三年後に妻になる陽子だった。

同窓会の翌日、幹事の伊藤から陽子のケータイ番号を聞き出し、電話をしてみた。
陽子は、デートの誘いにはあまり気乗りしないようだったが、何度目かの電話でOKが出た。俺は、東京に戻り就職活動を積極的に行なうようになった。別にまだ付き合っているわけでもないのに、陽子のそばにいたくて、地元企業への就活を始めた。
特に何になりたかったわけでもない。手当たり次第受けてみたが、不景気の影響もあり、なかなか決まらなかった。
しかし、一社、このS製薬だけが採用通知を出してくれた。俺は、陽子の近くに行けることがただただ嬉しくて、すぐに故郷、南相馬に戻ることに決めた。

大学も無事卒業でき、4月からS製薬に就職した。それから陽子と俺は、週一回、日曜日のデートを重ねた。陽子は、専門学校を卒業し、地元の菓子メーカーに就職していた。陽子は、俺より二年も先に社会に出ていたため、自分とは比べ物にならないくらい大人っぽかった。でも陽子は、俺のことをいつもあたたかく励ましてくれた。

就職してからは、陽子と一緒になるために一生懸命仕事に打ち込んだ。最初は自分の力の無さに何度も転職を考えたが、使い物にならない俺を上司や取引先である病院の先生たちが根気強く育ててくれた。そして3年後、まだまだ未熟な俺と陽子は結婚した。
翌年、長男の翔太が生まれ、俺にも父親としての自覚が芽生え、仕事に打ち込んでいった。会社からも取引先からも信頼されはじめ、順調に成長していくのが自分でもわかった。
長男の誕生から3年後には、長女の美咲も生まれ誰からも羨まれるような人生だった。