小説:「土曜の夜と日曜日の夕方」〜後編〜

0
338

店を出て、クルマで国道6号線を北上させた。
昼下がりの日差しがとても眩しかった。
もうすぐこの南相馬にも春が来るのだと思いながら、金曜日というのに比較的空いている道を二人で好きな音楽の話しや、他愛もない会話をしながらちょっとしたドライブを楽しんだ。
クルマで20分ほどきた場所に、「ホテル ナイン」の看板が見えてきた。
二人は、急に無口になった。
昼間のホテルは、ネオンサインもついていないので、なにか生命感の感じられない素っ気ないただの箱のように思えた。
厚手のビニール製カーテンを抜けて、そそくさとクルマを駐車場に入れた。
恐らく誰にもバレないだろうと思っていたが、やはり平日の日中にこんな場所にくるのはちょっとやましい感じがした。
目隠しをされた、その駐車場に入った瞬間、合図もしていないのに同時に二人で少し大きめな息を吐いた。
外見は大人びて見える葵ちゃんだけど、やっぱり緊張しているのだろう。ホテルに入る前から口数が少なくなっていた。
緊張している葵ちゃんをリラックスさせようとホテルの受付パネルの前で言った。
「カラオケができる部屋みたいだから、ここにしよっか?」
「うん」
少しだけ表情がやわらかくなったように見えた。
選んだ部屋は、1階の突き当りに位置した。
俺は、ゆっくりとドアを開け、部屋の中を軽く物色するように入っていった。
「おじゃましまーす……」
誰かの部屋にでも遊びに来たかのような言い方をして、葵ちゃんも入ってきた。
「わー、意外とキレイな部屋だけど、この鏡の壁ってなんかセンスないよね」
ちょっと眉間にシワを寄せて言った。突然小さな檻に放たれたメス猫のように不本意に用意された場所を冷静に分析し、その中でも自分にもっとも居心地のいい場所を見つけ出そうとしているようだった。
2011年3月11日 金曜日 午後14時12分。