インタビュー:佐山氏に聞く「復興、破局、復旧はトキのワ ー独りの出版人としてー」

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編集部:11組の子どもと家族の姿を追ったハートウォーミングなフォトルポルタージュで、悲惨事にワクワクしてしまう<呪われた眼>は表向き封印されていますが。

佐山氏:怖いもの見たさや野次馬根性は禁欲されて、直後は現地に行かないことにしたようだし、家族を撮るプロジェクトのときは髪を刈って赴いたというから、起きてしまったことの甚大さが今更ながらしのばれるというか。彼とは月刊誌の仕事で2005年にソウルで一緒に仕事したことがあるんです。

ぼくは初沢亜利さん(1973-)とも一度だけ仕事をしたことがあるんだけど、『 True Feelings 爪痕の真情。2011.3.12~2012.3.11』(三栄書房)の完成度の高さにはびっくりしました。

<3月12日夜、緊急車両の申請が下り、東北道をひた走った>で始まって、

<2012.3.11から新たなヒカリを生み出していくのは被災者自身だろう。カメラとはヒカリを取りこむことしかできない装置だ。一年を束ねた写真作品が、彼らの精一杯の日々に「もうひとつの記憶」として、別な角度から照射するものとなれば、私にとってささやかな救いである>

──で終わる6頁分の文章はもしかしてソンタグの名著を超えているのかもしれない。20回近く「気仙沼」に通い詰めての思考の深化プロセスが読みどころで「被災者」とは何であったかを越えての「人間」探求がいいんです。撮られた写真のめざすところが「10年後に見て、うっすらと苦笑いしてしまうような写真」でしたから、いわば非情報としての写真群。瓦礫の上がアートとジャーナリズムの波打ち際になっています。

編集部:二人の気鋭写真家の対談集の司会・構成をされたらどうですか。

佐山氏:商業的成功が多少なりとももたらされたとはとても思えないので、二冊の写真集をもっと知らしめる意味でもね。この間、明治と昭和の2度の大津波を扱った吉村昭さん(1927-2006)の1970年の記録文学作品『三陸海岸大津波(旧題『海の壁』)』(文春文庫)の再評価もありました。ただ岩手県田野畑村の古老によるラストの語りがもう実にほろ苦いですね。曰く、

「津波は、時世が変ってもなくならない,必ず今後も襲ってくる。しかし、今の人たちは色々な方法で十分警戒しているから、死ぬ人はめったにないと思う」

残念ながら田野原村は大津波によって住宅約200棟が全壊。死者・行方不明者40人を出しています。

あと自分のなかでは、避難所の小中学生が創刊した壁新聞がとくに印象に残っています。テレビ報道が盛んになされたときから本にして欲しかったので、〝創刊〟から1ヵ月半の全号を収録した『宮城県気仙沼発! ファイト新聞』(ファイト新聞社著/河出書房新社))を見つけたときはとても嬉しかったな。作曲家/ピアニストの高橋悠治さん(1938-)の言葉に「新しい音楽をつくることは、うちにもそとにも開かれ、始原へさかのぼり続けること」というのがあるけれど、報道メディアの原点をいつかどこかで見失った大人に喝を入れながらもどこかに慰撫する力がありました。

愛と悲惨のこもった印象深い出版物があの重大破局によってもたらされ、そして運よく自分たちは生き残り、政権が変わり、母が終命し、今ではもう次世代への安全対策を羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く(一度しでかした失敗に懲りて、必要以上の用心をする)かのように言う人さえいる。最近ふと想うのは、金曜日だったあの日に死者たちが見た最後のテレビ番組のことです。まったくもってどうでもいい平々凡々たる話なんだけど、福島放送、東日本放送、岩手朝日テレビなどで同時ネットされた『徹子の部屋』(13:20-13:55)のその日のゲストはたしかお笑いタレントで俳優の高田純次さん(1947-)なのですよ。多くの人が最後に見たマイ・ラスト番組が高田純次さんという事実が切なくて、哀しくて、同時になんだかとても慰められる。そうした大切な平々凡々たる日々のために人はしずかに格闘をし続けなければならないんです。復旧・復興期の悲願とは恐らくそういうことを言うのだと思います。(了)

 

佐山一郎(さやま・いちろう)…作家/編集者/書評家。1953年、東京 ・自由ヶ丘生まれ。成蹊大学文学部文化学科を卒業後、『スタジオ・ボイス』編集長などを経て84年よりフリー。前年4月から今年2月までに『フットボールサミット』、『週刊朝日』などでトータル100冊を書評。月あたり平均10冊近くとなり自己最多記録を更新。代表的著作に『VANから遠く離れて 評伝石津謙介』(岩波書店)。

 

【関連書籍】


True Feelings―爪痕の真情。 2011.3.12~2012.3.11 [大型本]
初沢 亜利 (著)


ハッピーバースデイ3.11 あの日、被災地で生まれた子どもたちと家族の物語[単行本]
並河進 (著), 小林紀晴 (写真)


原発報道-東京新聞はこう伝えた [単行本]
東京新聞編集局 (著)


三陸海岸大津波 (文春文庫) [文庫]
吉村 昭 (著)


評伝 林忠彦―時代の風景 [単行本]
岡井 耀毅 (著)


宮城県気仙沼発! ファイト新聞 [単行本(ソフトカバー)]
ファイト新聞社 (著)

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